第84話「時期尚早につき」
「引き継ぎ資料の作成は順調か、冬彦?」
「昨年度の決算が届いたから、もう少しでできそう。そっちは?」
「目処はついとる。西園寺のほうも、順調なんやそうや」
「九、八、七、六、あと五ヶ月で任期満了か」
「もう、半年を切ったんやなぁ。これから、どれだけのことが出来るやろう?」
「いくつかの課題は、三十五代生徒会に積み残すことになるだろうね」
「いろいろと、提案はしたんやけどなぁ」
「生徒会の一役員の権限では、これが限界なのかなぁ」
「卒業式以外の式典の廃止」
「文化祭以外の祭典の廃止」
「制服の撤廃」
「それに伴う、私服通学の許容」
「五月に知識を問う筆記試験、七月に思考を問う論述試験による、春夏二次試験制度」
「そして、九月入学と、二・八月の全日休暇。副教科の選択履修制」
「文部科学省に言わんといかんって言われたら、さすがになぁ」
「でも、公立教育は、私学と違って、選ばざるを得ない人が多い訳だから、要望に応じるべきだと思うんだけどなぁ」
「それでも、いつかは変わるんと違うかな」
「いつになるやら。どうしようもなくなってからじゃ、間に合わないのに」
「今が、どうしようもないかどうかは、あとになって振り返るまで、わからんからなぁ」
「手遅れだよ、それじゃあ」
「あんまり誰かに文句ばかりを言うてると、自分で何か出来ないかということを、考えなくなるで?」
「自分の不摂生で病気になったのに、治せない医者に責任を追及するようなものだね」
「そういうこと。公教育に文句があるなら、学校に頼らない生きかたを模索するのも、一つの考えかたやろうしな」
「それも、そうだね。よし。資料完成」
「お疲れ。あとは、プリントアウトして、冬彦の担任の印鑑を貰うたら、完成やな」
「大石先生って、まだ学校に残ってるかなぁ」
「部活の顧問を持ってへんからなぁ。居らんかったら、明日でも、構わへんで」
「先延ばしには、したくないんだけどなぁ」




