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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
83/164

第83話「楽観」

「何を読んでるのん、夏海ちゃん?」

「二、三十年前に流行した漫画。文庫版が出てたから、買うてみたんよ」

「少女漫画か。画風が古いな」

「昭和を感じるね」

「ヒロインが、転校初日に遅刻するところから始まるんよね」

「何で、目覚ましを、そんなぎりぎりにセットしてるんやろう?」

「スヌーズやないんか?」

「ベルが鳴るタイプだよ。そんな便利な機能が付いてるとは、考えにくいけどなぁ」

「遅刻しそうになったからって、何で、トーストを咥えて走るやろうね?」

「あたしは、実際にやったことあるんやけどね」

「行儀の悪いこっちゃ」

「僕は、遅れそうになったら、シャワーだけ浴びて、朝食は摂らないかな。あ、でも。玄介さんと暮らすようになってからは、卵焼きだけは食べていくように言われるようになったなぁ」

「うちは、彪子伯母さんに、御御御付だけでも飲んで行きって、言われるわぁ」

「春樹かって、塩おにぎりを頬張りながら、坂を登ってたことがあったやん」

「あの日は、夜中遅うに青衣に起こされたから、もういっぺん寝たあと、起きられへんかったんや」

「面倒見が良いよね」

「何やかんや言うても、最後には手を貸すんよね、春樹くんは」

「春樹、優しい」

「やめい。無性に恥ずかしぃなってくるやないか」

「それにしても、目に星がいっぱいだね、このヒロイン」

「隣の席になった男の子が、朝に曲がり角でぶつかった、嫌味な子なんやね」

「最後には、この二人が結ばれるんと違うかなぁ」

「読んだ先に待っとる結論がわかりきっとって、面白いんか?」

「そこに行き着くまでのプロセスが、面白いんだよ」

「そうなんよねぇ」

「現実にあったら、こうはいかへんとは分かってるから、余計にね」

「少年漫画でも、ありえへんことが多いけどな」

「主人公が、強すぎるよね」

「敵も、隙が多すぎるわ」

「自分が、いかに強いかということを、戦う前に長々とアピールをしときながら、主人公に負けたあとに『この俺を倒したぐらいで、勝ったと思うなよ』とか言うんよね」

「ほんで、四天王やら、三賢人やらが待ち構えてるとかいう、長口舌を振るうんやんな」

「そうそう」

「途中で、主人公を裏切る仲間が居って、最後に、戦わなあかんところまで拗れるんよね」

「死闘を繰り広げて、すれすれで勝った主人公が『お前に、この最終奥義を向ける日がくるとはな』とか何とか言うたあと、世の中が悪いみたいな独白を始めるんよね」

「まぁ、深く考えんと、気楽に読めばええんやけどな」

「漫ろな画、と書くぐらいだからね」

「裏に込められたメッセージを読み解こうとし過ぎると」

「楽しまれへんもんね」

「たとえ、辻褄が合うてなくても」

「フィクションだからねぇ」


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