第82話「思考停止」
「あらかじめ、雛形が用意されとったら」
「何も考えんでも、それなりに済ませることが出来るんよね」
「でも、あんまり楽なほうに流れ過ぎると」
「形だけの無駄が、量産されるんよね」
「決まり文句が、それに相当するんやろうな、南方」
「そうやね、春樹。予定調和やね」
「無難といえば、無難だけど。どこか物足りないよね、西園寺さん」
「ほんまにね。春樹くんは、あんまり、そういうフレーズを使わへんよね?」
「聞くほうに、退屈させてしまうからな」
「会長が春樹になってから、集会が短くなったんよね」
「省略できることは、省略したもんね」
「午後から集会の日は、いつもより一本早いバスで帰れるようにって、頑張ったんよね」
「西園寺と冬彦にも、迷惑を掛けてしもうたけどな」
「結果オーライってことで、ええんと違う? ね、冬彦くん」
「大変だったけど、言いたいことを言ってくれたからね」
「もし、そのままやったら、どうなってたんやろうね?」
「赤組、優勝おめでとう。白組も、よく頑張りました」
「体育祭の表彰式で、お馴染みやね」
「毎年、校長先生が言うんだよね。じゃあ、これは? 本日は、晴天に恵まれ、多くの皆さまにお集まりいただけましたことを、心より、厚く御礼申し上げます」
「式典の始めやね。もし、雨が降ったら、お足元の悪い中、となるんよね」
「これは、どうやろう? 拝啓、風薫る季節となりました。いかがお過ごしでしょうか」
「古風な手紙とか、パンフレットに載ってる、冒頭挨拶やね」
「こういうのも、あるよ。平素は、本校の活動にご協力賜り、誠にありがとうございます」
「教職員から、保護者へ宛てての連絡に書かれてる文章やね」
「比喩表現にも、使い古されたものが多いな。抜けるような青い空」
「チョコレートのような光沢」
「カモシカのようにすらりとした足」
「走馬灯のように駆け巡る」
「さんざん聞かされて、耳に胼胝ができるわ」
「それも、ステレオタイプやね」
「あちこちで目にして、聞かされて、言わされて」
「その時に、退屈した記憶を忘れて」
「紋切り型に安住してしまう」
「そんな大人には、なりたくないもんやね」
「自力でよく考えろって、大人はよく言うけどさぁ」
「言うてるほうが、自分の頭で考えてへんよね」
「されて良かったことをしてあげて」
「やられて嫌やったことはせぇへん」
「本来の伝統は、そうやって好転させるべきだよね」
「分かっとっても、なかなか出来へんものやけどね」




