第8話「楠山祭」
「冬彦。ええ加減、観念したらどうや。時間を稼いだところで、クラスの決定は覆らへんで?」
「何が悲しくて、少女マンガのパロディをやらなきゃいけないのさ」
「恋愛ドラマ化されて、女子の間では知らん人間がおらんぐらいに人気になったせいやろうな」
「だからって、出演者が全員男子である必要は無いでしょう?」
「一組には、女子の意見に逆らえるほど、発言力を持った男子が居らんからなぁ」
「僕もナレーションがよかった」
「悪いけど、譲る気はないで。早いうちに立候補しておくんやったな」
「お呼び出し申し上げます。生徒会長、生徒会長。記者倶楽部副長の中之島正がお待ちです」
「普通に呼び出せ、中之島」
「おやおや。放課後の教室でデートしてはったんや。とんだお邪魔虫で」
「勘違いするんやない。よう見ぃ」
「やめて。近寄らないで」
「その澄んだ雲雀のような声は、もしや会計さんではありませんか?」
「その通りや」
「スカート穿いて、化粧して、おまけにマニキュアまでしてはるやありませんか。もしかして、会長の趣味ですか?」
「ちゃうちゃう。クラスの女子にええようにされたんや」
「似合ってはるよ、会計さん」
「本気で、やめて」
「いつもの中之島の冗談やないか。気にせんと受け流したらどないや、冬子。いや、冬彦」
「今の絶対、わざとだよね?」
「それはそうと、二年校舎まで何しに来たんや?」
「我が一年一組は、模擬店をすることになりましてね。葱焼きを売ることになったんです」
「そうか。それは良かったな。報告、ご苦労さん」
「まだ続きかあるんです。ぜひとも一枚でも多くの食券を購入いただきたく、こうして販売に伺った次第で」
「ほんなら、二組の食いしん坊万歳に売りつけたらどないや?」
「誰が、食いしん坊万歳や」
「噂をすれば隊長、それに、書記さんまで」
「まだ仮縫いだから、走らんとってよ」
「どないしてん、全身カマキリみたいな色の背広を着たりして」
「誰が、カマキリや」
「うちのクラス、新喜劇のパロディをすることになったんよ、春樹くん。ほんで、夏海ちゃんが借金取りをすることになったから、今、衣装を拵えとったんよ」
「衣装協力は、彪子小母さんか?」
「そうやねん。うちは、こんなに本式の衣装にするつもりはなかったんやけどね」
「本職は格が違うてるな。ブティック白蝶貝ってロゴ入れもええぐらいや」
「隊長、よぅ似合ってはる」
「そうか。せやったら、ええんやけど。ん? 見慣れへん女子が居ると思ったら」
「見ないで」
「やっぱり北条くんか。よぅ似てると思ってたら、本人やったんやねぇ。よぅ似合うてるよ」
「黒江さんに似て、色が白うて線が細いからなぁ、冬彦くんは」
「ほら。皆さん、大絶賛してはるやありませんか。自信を持ったらどないです、会計さん」
「そうかな。じゃあ、ちょっと、頑張ってみようかな」
「その気になったか。ほんなら、リハーサルの続きに行こか」
「なんや、リハを抜けて来てたんかいな」
「行ってらっしゃい。頑張りや」
「本番、期待してますからね、先輩。ついては応援料として、食券を買っていただきたいと」
「話が丸く収まったと思うたら。しつこい奴やな」
「いいじゃないか。買ってあげよう」
「さすが会計さん。話が分かってはるわ。他人に押し付けようとした誰かさんとは、えらい違いや」
「ちょっと待て。別に、買わへんとは言うてへん」
「書記さんや隊長も、買うてくれませんか?」
「買うてあげようか、夏海ちゃん」
「そうやね、秋ちゃん。この分やと、買うまで付いて来そうやしな」
「毎度、おおきに」