第76話「壁の両面」
「ドーナツ、レモン、みんな、ファイト」
「あおいそら、ラッパ、しあわせ」
「ソから始まる言葉ではないんよね、春樹」
「日本語の歌やのに、半分以上、カタカナやな、南方」
「どてら、れんげ、みかん」
「ファは、どないしようもないな。いろはで考えたほうが、ええんと違うか?」
「そうやね。たしか、ハがスタートやんね?」
「そうや。ハニホヘトイロハや」
「ハは、はじめのハ。ニは、日本のニ」
「ホは、蛍のホ。ヘは、へちまのヘ」
「トは、豆腐のト。イは、苺のイ」
「ロは、ろくろのロ」
「蛍、へちま、ろくろか。分かりにくいこと、あらへん?」
「どてらよりは、幾分、マシやと思うで」
「何の話をしてたのかな?」
「春樹くんが、どてらを着るのん?」
「違う、違う。どてらを言い出したのは、南方や」
「南方さんが着るの?」
「ちゃうねん、ちゃうねん。もう。紛らわしい言い方せんといてよ、春樹」
「すまん、すまん。ドレミの歌の話をしてたんや」
「ドは、どてらのドって訳やね?」
「そうやねん」
「日本語らしい歌詞にしたら、どうなるんやろうなぁって考えてたんや」
「英語だと、全然違うからね」
「英語の歌詞って、どんなんやったっけ?」
「そういえば、中学の頃、習うたなぁ、西園寺」
「そうやね、春樹くん。ドが、雌鹿で、レが、太陽光線で」
「ミが、自分のことで、ファが、遠い道のり」
「ソが、針と糸で縫うこと、ラは何やったっけ?」
「ラは、ソの次や」
「ここは、手抜きやね」
「シだと、ソと頭文字が被るから、ティで、紅茶のこと」
「どこか、腑に落ちへんところがあるなぁ」
「ドレミ自体が、英語でも無いからと違う?」
「言葉の輸入やな」
「国内で、独自に変化した訳か」
「日本では、当たり前のことやっても」
「海外では、驚かれるんよね」
「ナポリタンしかり、杏仁豆腐しかりな」




