第73話「類似」
「パティシエこだわりの、滑らかで、しっとりした味わい」
「ビロードのような、しなやかさと、上質なコク」
「職人仕込みの、蕩けるような、やわらかさ」
「新鮮で、濃厚な口解け」
「飲み物、買うてきたで。ほら、冬彦」
「ありがとう、東野くん」
「春樹くん、おおきに」
「何の話をしてはったんですか、皆さん? はい、部長さん」
「おおきに。プリンの話なんよ、中之島くん」
「副長、おおきに」
「同じ、プリンと銘打っていても、ピンからキリまであるからね」
「それぞれに、定番のキャッチコピーを考えてたんよ、春樹くん」
「何とか限定、とかか?」
「食感や、味ではないんですね」
「季節、先着人数、地域。色々と、応用が利きそうやね、春樹」
「でも、それは、実質の商品特性とは、違うことあらへん?」
「付加価値ではあるけど、残念ながら、実際にプリンを食べて味わう上での違いには、該当しないね」
「たまに、メーカー名と入れ物だけが違うだけなんと違うかなぁ、と思う商品がありますよね」
「原材料が違う、製法が違う、内容量が違う。作ってるほうは、はっきりした違いがあるんや、と思うてるかも知れへんけど」
「買う側は、同じようなもんやと思うてることが、多いんよね」
「リクルートスーツを着た、新社会人みたいなものですなぁ」
「本人たちは、自分は他の人たちとは違うてると思うてるやろうけど」
「傍で見てる分には、クローン人間みたいに見えるんだよね」




