第7話「腕力と嗅覚」
「その紙袋は何やの、北条くん」
「ビスケットとマーマレードを作ってきたんだ。みんなで食べようと思って」
「冬彦くん、こっちに居る?」
「あら、夏海ちゃん」
「やっぱり、食べ物やってんなぁ。そうやろうと思っててん」
「鼻が利くね」
「ほんまに。犬と同じやね」
「人を動物に譬えんとって」
「あれ。おかしいなぁ。えい」
「冬彦くん、何してるん?」
「ビンの蓋が渋くなってもうたんと違う?」
「西園寺さんの言う通り」
「ちょっと待っとって。春樹くんを呼んでくるわ」
「行ってらっしゃい。閉める時に、きつく回したん?」
「こんなに固く閉めたつもりは、無かったんだけどなぁ」
「ちょっと貸してみ?」
「開かないよ」
「無理かどうかは、やってみな分からへん。駄目元やん」
「はい、どうぞ」
「どうも。あ、たしかに」
「固いでしょう?」
「まだ、本気は出してへんよ。これでも、林檎を素手で割ったことがあるんやから」
「逞しいね。でも、無茶しないでよ」
「冬彦」
「あ、東野くん」
「それで、さっき言うとった開かへんビンは?」
「今、南方さんが持っているのがそれよ。あ」
「開いたで」
「まぁ、すごい」
「俺が来た意味は?」
「皆さんお揃いで、何事ですかな?」
「副長まで来たんかいな」
「連れてきた覚えはないんやげどな」
「甘い匂いに誘われて、立ち寄らせてもろうた次第です」
「あらあら。もう一匹いたわね」
「フフフ。そうだね」