第69話「応募」
「中之島。どうして、遅刻したのかね?」
「春眠、暁を覚えず。処処、啼鳥を聞く」
「孟浩然の、春暁か。夜来、風雨の声」
「花、落つること知りぬ、多少ぞ」
「暗誦は結構だが、正当な理由無き遅刻は、出席日数に影響するから、注意するように。遅刻三回で、欠席一回としてカウントし、全出席日数の五分の一以上の欠席で、原級留置になることを忘れずに。いくら、成績が良くても、遅刻ばかりでは、進級できないからな」
「眠そうやね、副長」
「昨夜は、夜更かしし過ぎました。隊長」
「遅くまで、何をしてたんだい、副長くん」
「会計さんと部長さんを見てたら、彼女が欲しなってきたんです。それで、どうしたら彼女が作れるか、考えてたんです」
「考えて出来るものとは、違うと思うで?」
「そうそう。焦らなくても、そのうち出来るよ」
「せやからって、待てばカイロの日干し煉瓦では、いつまで経っても、彼女は出来ませんよって」
「立派なピラミッドは、できそうやね」
「待てば海路の日和あり、だよ。それで、どう動くつもりなんだい?」
「温故知新で、恋文作戦ですよ」
「定番やね」
「誰に出すつもりなの?」
「そこで、一晩中、悩んでしもうたんですよ」
「何や。特定の相手も居らんのに、ラブレターなんか出されへんやん」
「それなら、全校生徒に順番に入れて行くのは?」
「それは」
「総当りやったら、一人ぐらい当たりがあるんと違う?」
「それとも、歳の差が好みなのかな?」
「せめて、女子高生でお願いしますよって」
「記者倶楽部初の、性犯罪者か」
「あるいは、不倫かもよ」
「何や、ロリコンで熟女好きやったんか、中之島?」
「やぁ、東野くん」
「聞いてたんや、春樹」
「よぅ、南方、冬彦。記者倶楽部がどうとか、ってところからな」
「誤解ですよ、会長」
「そのキーホルダー、どうしたん?」
「可愛いキャラクターだね」
「お茶のペットボトルに付いとったキューアールコードを読み込んだら、当たってな。青衣にやろうとしたんやけど、俺の鞄に付けるように言うて、聞かへんかったんや」
「当たる人は、当たるんですね」