第67話「計画通り」
「はい、二人とも口角をあげて」
「どうして、こんなことになったんやっけ、南方?」
「あたしは、買い物をしてたら、玄介さんに会うて」
「それで、そのまま、僕の家まできたんだよね」
「俺は、帰り道で、黒江さんに会うたんや」
「荷物を置いて着替えたらここに来る、って約束したんだよね」
「そのあと、なぜか、夕飯を一緒に食べることになって」
「気ぃ付いたら、カフェを手伝う算段がついてたんよね」
「今日一日、カフェを手伝うって、証拠文書も残ってるよ。ほら、二人とも笑顔」
「そこやねん。どうも、記憶が曖昧で」
「書かれたサインは、自分の字なんは認めるんやけど、書いた覚えが」
「定かではない、って言いたいのかな? 手が止まってるよ、東野くん」
「高校生だけで店番するって、無理があるような気がするんやけど?」
「あたしも、そう思うわ」
「心配いらないよ。常連さんばっかりだから。料理は、レシピボックスに、レシピカードがあるし。南方さんは、注文取りをお願いするね」
「はい、二人ともお疲れさま」
「お疲れ、冬彦くん。どうしたん、春樹。変な顔」
「慣れない営業スマイルを、続けてたからものやからな。そういう南方かって、おかしな顔になってるで」
「鏡を見てきなよ。洗面所の場所は、知ってるよね?」
「カウンターの奥を左やんね」
「そうだよ」
「ただいま、冬彦」
「帰ったで、冬彦」
「お帰りなさい。ちょうど、カフェを片付けたところ」
「似合うわね、玄介さんのギャルソンエプロン」
「何や、俺以上に、様になっとるなぁ。もう二三日、働いてもらおうかな」
「勘弁してくださいよ、玄介さん」
「やっと、いつもの顔に戻ったわぁ」
「お疲れさま。二人とも、手を出してちょうだい。……はい、アルバイト代」
「こんなに貰えませんって。なぁ、南方」
「大したことしてへんもの。ねぇ、春樹」
「ええから、受け取ったって。こっちが無理言うて、働かせたんやから」
「せやけど」
「でも」
「いいから、いいから。貰っておきなよ」
「いただきます」
「おおきに」
「ところで、東野くん。冬彦から聞いたんやけど、バイクの免許を持ってるんやって?」
「父親が、郵便局員で、配達のアルバイトに使えるから、十六になったらすぐ取れって言われたもので」
「実はな、整備はしているんやけど、乗らなくなったバイクがあるんや。鍵とヘルメットを貸すから、二人で乗って帰り」
「あの、黒いバイクね、玄介さん。あれも、たまには、外の風に当てないとね」
「良かったね、二人とも」
「ええんかなぁ。どう思う、南方?」
「ここは、乗って帰るしかないんと違う、春樹」
「はい、ヘルメット。それから、鍵」
「絶好の、ツーリング日和ね」




