第65話「雨降って」
「あれ。ここに入れてたと思うてたんやけどなぁ。使うてしもうてたんかなぁ」
「鳳さん」
「その声は、千林さん?」
「あんた、さっき廊下で、ポケットから落としたものがあったわよ。渡すから、ドアの下の隙間から、手を出してちょうだい」
「はい。……あの、おおきに」
「愚図だし、おっちょこちょいだし、根暗だし。嫌な女だと思うてたんやけど、案外、話してみたら分かる子やったんやな、あんた」
「気が強いから、何となく、避けてたのよ。それに、怖そうな委員長と、いつも一緒に居たから。ごめんなさい」
「そうやって、すぐに謝るのは、怒りの炎に、余計に油を注ぐことになるから、止めたほうがええよ」
「それも、そうやね」
「それより、どうなのよ、一組は?」
「悪くないわよ。中之島くんと、同じクラスになったし」
「あぁ。あの、記者倶楽部とかいう謎のクラブで、副長をやってる子やね。あたしも、委員長と別れて、別のクラスにもなって、せいせいしてるところや」
「仲が良さそうに見えたんやけど、何で別れたん?」
「あたしのことを、何かと束縛したがるし。傲慢不遜やし、器も小さいから、嫌気が差したんよ。距離を置いてみな、わからへんもんやね」
「そういうもんなんかなぁ」
「そういうもんやと、思うとって。それにしても、あんた、変わったわ」
「そう?」
「あの、びん底めがね、やめたんやね」
「冬彦さんが、こっちのほうが似合うてるって」
「なるほど。ねぇ、提案があるんやけど?」
「何?」
「そのね。名字やなくて、名前で呼び合うことにせぇへん?」
「ええよ」
「決まりやね。またね、華梨那」
「またね、瑠璃ちゃん」