第64話「金曜日」
「セイさんやないっすか。お久しぶりっす」
「うっ」
「何や、知り合いか、中之島?」
「中学時代の後輩なんですよ、会長。久しぶりやな、樟葉」
「どうも、樟葉礼多っす。どうしたんすか、先輩。ライで良いっすよ、セイさん」
「セイって呼ばれてたのか、中之島?」
「そうそう。そうなんですよ、会長。あぁ、そうだ。積もる話もあるし、ここでは何だから、場所を移そうか、樟葉?」
「いいっすよ、ここでも」
「俺のことなら、気にせんでええんやけど」
「いやいやいや。会長にお聞かせするのも、お耳汚しですから。――つべこべ言わず、来い」
「わかりやしたよ。それじゃ、会長さん。俺らは、ここで」
「お前、ナックルのライなんやな?」
「そうっすよ、吹き矢のセイさん」
「その名で呼ぶな。もう俺は、ヤンキー稼業からは、足を洗ったんだ」
「堅気になったわけっすね。丸くなったっすね。あ、歯列矯正は終わったんっすね。どうっすか、インプラントの具合は?」
「今度は、お前の前歯を二本、折ってやろうか?」
「やめてくださいよ。いくら俺の両親が、歯科医と歯科助手やからって、無料で治せる訳やないんっすよ。それで、金髪は、黒染めしてるんっすか?」
「違うわい。元の色に戻っただけや」
「ピアス穴は、塞がってるみたいっすね。左肩の彫り物は、どうしてるんっすか?」
「ある程度、薄くはなったんやけど、念のために、テーピングで誤魔化しとる」
「もう、内田さんを泣かせたらあきませんよ、先輩」
「泣かせてへん。怒られただけや。とにかく。中学時代のエピソードを、誰かに一言でも喋ってみぃ。絶対に、生きて返さへんからな」
「足を洗えてないっすよ、先輩」
「返事は、はい、以外は認めへん」
「はい、はい。誰にも言わないっすよ。――自分に無関心な両親の気を惹くために、わざとあんなことをしとった、なんてな」




