第61話「市営総合運動場にて」
「ぼ、ん、さ、ん、が、へ、を、こ、い、た」
「それにしても、冬彦と鳳が付き合うことになるとはな。――もっと、声を張らんと、向こうまで聞こえへんで、青衣」
「ほんま、意外やわぁ。ねぇ、秋ちゃん」
「うちは、うすうす、二人の恋心には勘付いとったよ、夏海ちゃん」
「ぼん、さん、が、へを、こい、た」
「冬彦くんにしても、鳳さんにしても、変わった様子は無かったと思うんやけど? ――朱雀。何を奇妙なポーズを決めてるねん」
「俺も、そんな素振りに気が付かへんかったけどな」
「鈍感さんやね、二人とも」
「ぼんさんが、へをこいた」
「なかなか、確信できへんかってんけど、決定打があったんよ。――中之島くん。匍匐前進では、日が暮れると思うんやけど?」
「何が、決め手になったんや、西園寺?」
「わからへんなぁ」
「ぼんさんがへを。いーちー、にーいー、さんまの、しっぽ、ゴリラの、息子、菜っ葉、葉っぱ、腐った、豆腐。そこまで」
「ほら、前に華梨那ちゃんが、ジャージを忘れた時があったやん」
「体操服だけ来て、あたしらの教室まで来た時やね?」
「そう言えば、そんなことがあったな」
「は、じ、め、の、第、一、歩。大股、何歩?」
「三歩」
「あの時の、二人の反応を見てたら、思うたんよ。これは間違い無いやろうなぁって」
「そんなに、変わったリアクションやったんか、南方?」
「うぅん。普通の受け答えやった、と思う」
「小股、何歩?」
「七歩」
「北条くんの目に、戸惑いの色が見えたんよ。ほんで、どうしたんやろうなって思うて、あとで、鎌を掛けてみたんよ」
「そうしたら、白状した訳か。冬彦も、災難やったな」
「秋ちゃんも、いちびりやねぇ」
「ごー、ろく、しち。はい、タッチ」
「フッ。一度は、鬼の立場に置かれるのも、また、一興かな」
「それは、おおきに。今度は、朱雀くんが鬼なんやね」
「よぅ、飽きもせんと、続けられるもんやなぁ」
「精神年齢が、近いんと違う?」
「そうかもしれへんね。でも、そろそろ休ませへんと。熱中症になっても、あかんし」
「そうやな。――おぉい。この辺で、一旦、休憩や」
「あたしは、スポーツドリンクを持ってきたんやけど、二人は?」
「俺は、お茶だけやな。あとは、タオルとか、着替えとか」
「うちは、イースターに因んで、卵型のクッキーを焼いてきたんよ。彪子伯母さんと一緒に、ぎょうさん焼いてきたから、遠慮せんと食べてね」
「わぁ。美味しそうですね、書記さん」
「わーい。クッキーだ」
「先に、手を洗わんか、青衣」
「卵が先か、イースターが先か。それが、問題だ」
「何を、訳の分からんことを言うてるんよ、朱雀」
「いつものことやないか、南方」
「そうか。そう言うたら、そうやね、春樹」
「……いつになったら、二人の鉛の矢は抜けるんやろうなぁ」




