第57話「あたたまる」
「これだけ入れといたら、放課後いっぱい持つやろう。頑張りや」
「おおきに、塚口さん」
「もし、早うに無くなったら、用務員室まで、ポリタンクを取りに来てな。五時には帰るから、閉まってたら」
「職員室で、鍵を貰えばええんですよね?」
「そうや。ほな、頼んだで。さいなら」
「さいなら、塚口さん」
「十八度でええか、西園寺?」
「ええよ、春樹くん」
「ええ加減、この部屋も、掃除をせな、あかんな」
「それよりも、早う、在校生代表の言葉を考えなあかんのと違う?」
「そっちの送辞も、せなあかんな」
「座布団、没収」
「評価が、塩っ辛いな」
「うちは、こうして紙花を作ってるし、北条くんは、伴奏の練習をしてるんよ。仕事してへんのは、春樹くんだけやない」
「少しは、真面目にやろうか。昨年と同じでは、芸がないからなぁ」
「でも、あんまり好き勝手にやり過ぎると、来賓の顰蹙を買うてしまうし」
「せやかって、お決まりの文句で、予定調和にしたら、退屈するで?」
「それでも、楠山祭とは違うて、式典やからね」
「何で、来賓が出席するんやろうな?」
「偉そうにしたいんと違う? あと、教頭先生が呼びたいって言うてるみたいやし」
「あの、石頭の、ブルドッグめ」
「いくら、ここで悪態を吐いても、在校生代表の言葉はできへんよ?」
「そうやな。まぁ、ええ言葉が浮かぶまで、そっちを手伝うわ」
「まだ残ってたの? もう、すっかり日が暮れてるのに」
「姫島先生」
「英語のバブル姫か」
「悪かったわね、バブルを引きずってて。寒いと思ったら、ストーブ入れてないかったのね」
「灯油が無くなったんですね、気付きませんでした。姫島先生に当たってどうするんよ、春樹くん」
「最後に、何か、印象に残るような、気の効いたフレーズは」
「送辞を書いてたのね」
「紙花のほうは、できたんですけどねぇ」
「もう少しで、うまく動きそうやのに、どこか、歯車が噛み合わへん。あぁ、もどかしい」
「日を改めたほうが、良いんじゃないかしら?」
「本番は、まだ先なんやから、もう少し落ち着いて練り直そう、春樹くん」
「むむむ。致し方なし」
「窓の鍵は、閉まってるかしら?」
「うちは、こっちから時計回りに見て行くから、春樹くんは、そこから時計回りに見て行って」
「ここからやな?」
「そうそう」
「開いてなかったわね?」
「ええ。こっちは全部、閉まってます」
「こっちも」
「それじゃ、扉を閉めるわよ」




