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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
57/164

第57話「あたたまる」

「これだけ入れといたら、放課後いっぱい持つやろう。頑張りや」

「おおきに、塚口さん」

「もし、早うに無くなったら、用務員室まで、ポリタンクを取りに来てな。五時には帰るから、閉まってたら」

「職員室で、鍵を貰えばええんですよね?」

「そうや。ほな、頼んだで。さいなら」

「さいなら、塚口さん」


「十八度でええか、西園寺?」

「ええよ、春樹くん」

「ええ加減、この部屋も、掃除をせな、あかんな」

「それよりも、早う、在校生代表の言葉を考えなあかんのと違う?」

「そっちの送辞も、せなあかんな」

「座布団、没収」

「評価が、塩っ辛いな」

「うちは、こうして紙花を作ってるし、北条くんは、伴奏の練習をしてるんよ。仕事してへんのは、春樹くんだけやない」

「少しは、真面目にやろうか。昨年と同じでは、芸がないからなぁ」

「でも、あんまり好き勝手にやり過ぎると、来賓の顰蹙を買うてしまうし」

「せやかって、お決まりの文句で、予定調和にしたら、退屈するで?」

「それでも、楠山祭とは違うて、式典やからね」

「何で、来賓が出席するんやろうな?」

「偉そうにしたいんと違う? あと、教頭先生が呼びたいって言うてるみたいやし」

「あの、石頭の、ブルドッグめ」

「いくら、ここで悪態を吐いても、在校生代表の言葉はできへんよ?」

「そうやな。まぁ、ええ言葉が浮かぶまで、そっちを手伝うわ」


「まだ残ってたの? もう、すっかり日が暮れてるのに」

「姫島先生」

「英語のバブル姫か」

「悪かったわね、バブルを引きずってて。寒いと思ったら、ストーブ入れてないかったのね」

「灯油が無くなったんですね、気付きませんでした。姫島先生に当たってどうするんよ、春樹くん」

「最後に、何か、印象に残るような、気の効いたフレーズは」

「送辞を書いてたのね」

「紙花のほうは、できたんですけどねぇ」

「もう少しで、うまく動きそうやのに、どこか、歯車が噛み合わへん。あぁ、もどかしい」

「日を改めたほうが、良いんじゃないかしら?」

「本番は、まだ先なんやから、もう少し落ち着いて練り直そう、春樹くん」

「むむむ。致し方なし」

「窓の鍵は、閉まってるかしら?」

「うちは、こっちから時計回りに見て行くから、春樹くんは、そこから時計回りに見て行って」

「ここからやな?」

「そうそう」

「開いてなかったわね?」

「ええ。こっちは全部、閉まってます」

「こっちも」

「それじゃ、扉を閉めるわよ」


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