第56話「台風」
「隊長。勘弁したってください」
「あ、副長くんだよ、西園寺さん」
「ほんまやね、北条くん。裸足で走ってるけど、どうしたんやろう?」
「逃がさへんで。まだ、左足が残ってるんやからな」
「あぁ、副長くんも、あれをやられた訳か」
「北条くんも?」
「うん。中学の時に、一度。西園寺さんも?」
「うちは、修学旅行の時に、部屋で」
「あれは、痛いよね」
「中之島くんが、裸足で逃げ出したくなるのんも、頷けるわぁ」
「会長、助けてください」
「どないしたんや、中之島」
「春樹。副長を、捕まえとって」
「今、隊長に捕まるわけにはいきませんって」
「おい。俺を盾にするな」
「追いついたで、副長。観念しぃや」
「何をしてるんや、南方。中之島が、何かやらかしたんか?」
「説明は、捕まえたあとや」
「窮鼠、猫を噛む、中之島正です」
「また、訳の分からんことを。こら、お前ら。俺の周りを、ぐるぐると回るな。バターになるぞ」
「よし、捕まえた」
「うぅむ。残念、無念」
「春樹。悪いんやけど、暴れへんように、こうやって、しっかり抑えといてくれへん?」
「何をする気や?」
「台湾式の足つぼマッサージ。この本に載ってるねん」
「何や、そういうことか」
「納得するのは、まだ早いですよ、会長」
「いくで。えいやっ」
「いったったった。たぁ」
「おい、南方。やり過ぎと違うか?」
「痛いぐらいで、ちょうどええ、って書いてあるから大丈夫やって」
「それっ」
「あだだ、あだだだ」
「ほんまに大丈夫か? 尋常やない、痛がりかたやで」
「普段から、オーバーリアクションやないの。平気やって」
「……これは、素の反応ですよ、会長。ここは、逃げはったほうがええ」
「……そうするわ」
「何を、こそこそ話してるんよ?」
「マッサージは、その辺で。そろそろ、生徒会室に戻らなあかんからな」
「それは、早う戻らなあきませんな、会長」
「最近、目が霞むって言うてたやん、春樹。治したるから、校内履きと靴下脱いで」
「気持ちだけ、ありがたく受け取っておくわ」
「遠慮せんでも、ええのに」
「夏海ちゃん、野田先生が呼んでるわよ」
「あ、秋ちゃん、おおきに。イノシシが、あたしに何の用やろう?」
「東野くん」
「あぁ、冬彦」
「はい、これ。校内履きと、靴下。階段に、脱ぎっぱなしになってたよ」
「会計さん、おおきに」
「あとで、西園寺さんに感謝しておきなよ、東野くん」
「そうやな、言うとくわ。貸しが一つ、できてもうたなぁ」




