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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
54/164

第54話「ごちそうさま」

「リン酸塩、ピロリン酸ナトリウム、クチナシ色素、ウコン色素」

「増粘多糖類、エル・グルタミン酸ナトリウム、加工でん粉」

「かんすい、香料、酸味料」

「ピーエイチ調整剤、乳化剤、調味料」

「インスタント食品って、色んなものが使われてるんやね、春樹」

「そうやな、南方。どれが、どういう目的で使われてるんか、分からんけどな」

「見た目を良くしたり、日持ちするようにしたり」

「味を調えたり、カロリーを抑えたりってところやろうな。知らんけど」

「こういう化学物質が、身体に蓄積されると、悪影響を及ぼすから良う無いって、どっかの偉い医者やら、管理栄養士やらが出てる番組で言うとったなぁ」

「火曜の晩にやってるあれやろ? 毎日毎食、あのカマキリみたいな顔した小母ちゃんの指導を守っていたら、ノイローゼ必至や」

「あそこまで神経質に計算せんでも、ええと思うわ」

「出来上がった食事かって、病院食みたいなものやったしな。俺らは入院患者かって話や」

「いくら、胃腸に優しくても、あれはねぇ」

「無農薬有機栽培にこだわる必要もないやろうけど、遺伝子組み換えや、一代限りの作物には、行き過ぎた感じがあるな」

「ダブリューティーオーが、加工食品の中に、健康被害を及ぼすものがあるって言うてるらしいけど」

「ティーやない。エイチや。あんまり、過敏に反応しすぎてはいかんと思うわ。食べられるものが、無うなってしまう」

「せやね。どれだけ身体にええものやって言うても、毎日、同じものを食べ続けるわけにはいかへんもんね」

「過ぎたるは、及ばざるが如しって言うからな」

「ラットも可哀想やんね。狭いところに閉じ込められて、同じものばっかり食べさせられて」

「感傷に浸ってたら、科学は進歩せぇへんけど、やり過ぎには注意せんとな」

「これ、期間限定って書いてあるけど、どのへんが違うんやろう?」

「最近流行しだした俳優が、シーエムをやってるものやな、それ。食べたことのない味と食感を体験せよ、とか何とか言うてたけど、どうなんや?」

「商品名だけ頭に残ってたから、買うてみたんやけど、スーパーで五食パックになってるのと、大して違いがないように思うんよね」

「安易なグルメレポートと一緒やな。今まで有りそうでなかった奇抜な組み合わせ、という触れ込みで下手物を売り込んだり」

「日頃は、冷えた折り詰めしか口にしていないのが丸分かりの、箸の持ち方もなってない無作法なレポーターが、訳知り顔でコメントをしたり」

「若手お笑い芸人が、味や香りが全く伝わらない下品なリアクションをしたり」

「日本人の味覚や、和食の文化を無視した、独り善がりのシェフが、偏屈な拘りをひけらかしたり」

「一般家庭には、おおよそ常備していないような食材やスパイスの使うてることを、これみよがしに自慢したり」

「大量の料理を、制限時間いっぱいまで、味わう暇もなく、とにかく詰め込んだりな」

「食への飽くなき追究って言うたら、聞こえはええかも知れんけど」

「一周回って、専門馬鹿にならんように、気ぃ付けなあかんやろうな」

「そういう番組のシーエムって、たいてい一つは、台所家電を宣伝してるんよね」

「家庭用調理器具って、有れば便利やろうなって思うて買うてみても、後始末が大変やったり、操作音がやかましかったりで、実際使うのは年に何回かしか無うて、そのうちに押入れに仕舞うておくことになるねんな、これが」

「ほんで、最後は、不燃ごみの日に出すことになるんよね」

「まぁ、経済は回るんかも知れんけどな」

「資源の無駄遣いやって」

「今日も、期限切れの食品が、産業廃棄物として、大量に処理されてる訳やからな」

「せやからと言うて、生産者は、売り捌けへんかった分を偽装したらあかんし」

「自分の目と鼻で確かめもせんと、鬼の首を取ったように言い立てる消費者も、どうかしてるわな」

「紛争地の難民キャンプでは、食糧不足やって言うのに」

「あ、それは、手助けになってるみたいやで」

「どういうことなん?」

「このマークの付いてる商品は、代金の一部を紛争地に寄付し、子供たちの栄養食の配給に役立ててるんやって」


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