第51話「苦手意識」
「会長は、セロリ食べられる派ですか?」
「何や、その派閥は。まぁ、食べられるほうやけど」
「このパンに挟まってる分、食べてくれませんか?」
「こんな薄っぺらいものぐらい、気にせぇへんかったらええのに。どれ、貸してみぃ」
「春樹、副長」
「隊長や」
「よぉ、南方」
「何してるん、春樹?」
「中之島が、セロリが食べられへんって言うから、抜いとったところや。ほら」
「おおきに、会長」
「副長は、セロリがあかんのか」
「誰かって、嫌いな食べ物の一つや二つはあるもんや」
「そうですよ。隊長にも、あるんと違いますか?」
「そうやな。あたしは、ヨーグルトがあかんし、朱雀は、チーズがあかんねん」
「姉弟揃うて、乳製品に弱いんやな。西園寺は、納豆があかんかったんやけど、今でもそうなんかなぁ」
「変わらへんもんやと思いますよ。部長さんは、バナナがあかんって言うてました」
「腸が弱いんやろうか。冬彦くんは、たしか生のトマトがあかんかったわ」
「加熱すれば、ええんか? 俺は、オクラが、青衣はピーマンがあかん」
「ピーマンがあかんかったら、ゴーヤもあかんのと違いますか?」
「どっちも、苦いもんね」
「ところが、不思議とゴーヤは食べるねんな、これが。親や先生からは、好き嫌いせんと、何でも食べなあかんって言われてきたもんやけど」
「給食が無くって、自分で用意するようになると」
「いつも、同じようなものばっかり食べてしまうんよね」
「好き嫌いは、何も食べ物だけに限った話やないわな」
「好きな教科を選べるようになると」
「教科によって、出来不出来の差が激しくなって」
「ばらついてしまうんやな、ものの見事に」
「誰とでも仲良うせんでも良うなったら」
「特定の人間としか、付き合おうとせんようになって」
「視野の狭い人間に、なってしまうんやろうな」
「……空恐ろしい話ですね」
「せやな」
「ほんまやね」




