第48話「青の狂詩曲」
「外は一面、雪景色。ホテルを出れば、氷点下の世界」
「はるばる来たぜ、北海道って感じやね」
「函館やないけどね」
「それにしても、雪で観光バスの到着が遅れるとはな」
「十メートルどころか、一メートル先も怪しいぐらいの猛吹雪やもん」
「安全運転が、第一やもんね」
「引率の先生にしてみたら、思わぬ足止めやろうな」
「まさか、もう一泊することになるとは思うてへんかったやろうな」
「住吉先生も、ぴりぴりしてはったわ」
「あの無責任男は、相変わらず暢気に構えてるけどな」
「そのことに、イノシシは腹を立てとったで」
「『さすがは、バブル世代は余裕ですね』って、皮肉混じり言うてはったわ」
「そしたら無責任男が、『全共闘とは違いますよ』って」
「ほんで、すかさず鉄の女が、『ゆとり世代のほうが、まだマシね』って」
「世代論でくくるのは、乱暴やと思うんやけど」
「見てる分には面白いし、当事者たちも、見当違いなのは重々承知した上でのことやと思うで」
「多分、そうなんやろうな。知らんけど」
「そうなんと違うかな。話は変わるけど、さっきからピアノの音色がしてるのんに、気ぃ付いてる?」
「あぁ。昨日までは、こんな音はしてへんかったよな?」
「移動するたびに、何度かここに来てるけど、ピアノの音を聞いたんは、今が初めてやわ」
「どこから聞こえてくるんやろう?」
「正面玄関のほうと違うか?」
「ちょっと行って見ようや、秋ちゃん」
「そうしようか、夏海ちゃん。春樹くんも、どない?」
「せやな。ここにいても、することあらへんからな」
「あ、春樹くんたち」
「冬彦くんやったんや」
「退屈だからね。支配人さんに、エントランスのピアノを弾かせてくださいって、半ば駄目元でお願いしてみたんだ」
「そしたら、許可が下りたんやね?」
「そういうこと。僕たちの先生も含めて、お客さんの気が立ってるものだから、かえって歓迎されてね。このスコアも借り物だよ」
「たしかに、リラックス効果はありそうやな」
「ねぇ、他にはどんな曲が弾けるん?」
「初見や暗譜で弾ける曲は少ないけど、これはどうかな」
「どこかで聞いたことがあるわ。たしか」
「音大生が主役のドラマで使われとった曲やったな。タイトルは」
「あかん。喉のここまで出てるんやけどなぁ」
「フフフ。答えに近いのは、東野くんかな?」




