第47話「匙加減」
「出屋敷先生、ちょっと」
「何でしょうか、住吉先生」
「理科室に、電子レンジを持ち込みはったそうですね」
「準備室にですが。それが、何か?」
「学校の備品として、認める訳にはいきませんよ。あんなもの無くても、十分ではありませんか。現に、わたしの若い頃は、あんなもの無くても平気でしたもの」
「それは違うと思いますよ、住吉先生」
「あら、どうしてです、大石先生」
「自分たちの若い頃になかったからと言うて、若い世代に、その価値観や苦労を押し付けるのはあかんと思います」
「そこまで言わはるんやったら、見送ります。ですが、出屋敷先生。以後、学校に何かを持ち込む場合は、教員会議にかけてからにしてくださいね」
「はい、心得ます。……ふぅ。助かりましたよ、大石先生」
「このまま、住吉先生の専決処分が進んだら、司書室のコーヒーメーカーまで没収されかねへんからな」
「あぁ、そういうことですか」
「ということが、職員室であったものでな」
「それは、危ないところでしたね、大石先生」
「あの鉄の女は、頭が固いから難儀や」
「変わりませんね。あ、淹れ終りましたよ」
「出来たか。今日は、ちょっと多めに粉をセットしたからな。苦めになったんと違うかな」
「お好きですね、コーヒー」
「カフェインとニコチンが入らないと、頭が働かへん身体やからな」
「立派な依存症ですこと」
「それほどでも」
「岡本先生、カウンター当番の日誌は、どちらでしょうか? あ、大石先生もいらしたんですね」
「あら、西園寺さん。ごめんなさいね。まだ、昨日の分のコメントを書いてなかったの。はい」
「今日は、西園寺が当番だったのか?」
「いいえ。今日は、生徒会のほうですることがなかったものですから」
「ありがとう、西園寺さん」
「善意で代行するのはええけど、本来の当番に、ちゃんと仕事するよう言わなあかんで」
「はい、伝えます」
「司書としても、伝えておきます」
「それがええやろうな。真面目な人間が馬鹿を見るようでは、あかんからな」




