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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
43/164

第43話「時間です」

「悪いな、急に」

「良いのよ。今日は、お父ちゃんもお母ちゃんも、帰りが遅いから」

「わーい。夏海お姉ちゃんのお家だ」

「こら、走るんやない」

「おっと。これは、このあいだの青衣殿ではないか」

「あ、朱雀。あんたも帰ってたんや。お風呂は沸いてる?」

「今しがた、沸かしたところだ。しばし、待たれよ」

「朱雀お兄ちゃん、この前はチョコ、おおきに」

「これはこれは。ご丁寧に。そして、こちらからも、感謝の意を」

「下らない小芝居を打たんと、早う上に行って、宿題を済ましや」

「言われずとも、自室に直行するわ。臨兵闘者皆陣列在前」

「印を切るな。あたしは物の怪か。そうや、冷蔵庫に頂き物のゼリーがあるんやった。取ってくるわ」

「ゼリー」

「お前は、ここで待っとけ。あんまり人様の家の冷蔵庫を、見るもんやない」

「はい、どうぞ」

「オレンジだ。いただきます」

「いただきます。あれ? これ、底の裏に何か書いてあるなぁ。六芒星にエスか?」

「あ、そっちやったんか。朱雀のサインやねん、それ。取り替えるわ」

「どこの家でも、他人に食べられたくない冷蔵庫の食べ物には、必ず名前を書くんやね、お兄ちゃん」

「書くのは、お前だけやけどな」

「はい、春樹。給湯器が壊れたんやって?」

「壊れてはないんやけど、ガス会社の人が、設備の定期点検に来てな。給湯器の取替えが必要なことが判明したんや。まだ二・三日は、工事が必要らしい」

「昨日は、お母ちゃんと二人で、秋お姉ちゃんの家に行ったんよ」

「へぇ。よかったね、青衣ちゃん」

「俺は、銭湯に行ったんや。浴槽は広うても、夕方は混雑してるから、ゆっくり出来へんもんやな」

「取替えが必要って。そんなに古い給湯器やったん?」

「浴槽のすぐ横に据え置かれてて、排気管が窓から外へ、穴を開けた金属板に管を通し突き出てるタイプでな。一応、隙間は樹脂で埋めてあるんやけど、窓の建て付けが悪うなってるから、隙間風が入る代物なんや。おまけに、カランの床は玉砂利が埋め込まれたコンクリートやからな」

「お湯に浸かるまで、寒いんよ」

「古民家再生とか、和モダンとか言うて、和風建築がこのごろの流行してるけど」

「真冬の純日本家屋に住んでから言うてみぃって話や」

「お兄ちゃん、あれは?」

「あれって?」

「あぁ、忘れるところやった。いかなごの炊いたんを持ってきたんや。お湯をいただくお礼にな」

「気ぃ使わんでええのに。おおきに。もう、そんな季節やね」

「コープさんに、くぎ煮セットが並んでるもんね」

「専用の宅配サービスと一緒にな」

「各々がた、湯船の水分子の動きが、人間の体温に程近い温もりをもたらしたぞ。水温は、華氏百四度を超えておる」

「お風呂が沸いたんやね。どっちが先に入る?」

「俺はあとで良いから、青衣を先に」

「そう。じゃあ悪いけど、朱雀と一緒に入ってな。ほんなら、一緒に入ろっか、青衣ちゃん」

「はい、夏海お姉ちゃん」

「フッ。無邪気なものだ」

「まだ、小学生やからな」

「これから、血潮が凍るような思いするとも、知らずにな」

「何の話や?」

「きゃあ」

「朱雀。脱衣場の扉のすりガラスに、内側からゴム手袋を貼りつけるんやない」


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