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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
42/164

第42話「当たり前」

「生理痛ね。はい、水枕。中身はお湯だから。これで、お腹を服の上から温めると、段々楽になるわ。直に当てると低温火傷になるから、必ず、服の上からね」

「ありがとうございます、神崎川先生」

「横になりたかったら、手前のベッドを使って良いから」

「はい。そうします」

「ちょっと購買のほうに行ってくるわ。誰か来たら、そう言ってくれるかしら」

「わかりました」


「神崎川先生、中之島正が捻挫です。ギャグではなく、足首を捻ってしまいました。あれ? 滑ったのは分かるんですが、返事をください。スルーされると、今度はメンタルに堪えます」

「中之島くん?」

「あ、部長さんや」

「あんまり部長さんって言わんといて欲しいわ」

「でも、美術部の部長さんやない。幽霊部員二人とは違うて、一年生やのに熱心に活動に励んでるって、美術の先生から聞いたんやで」

「そうかもしれへんけど、上級生に目ぇ付けられたないもん」

「そんなん、気にせぇへんかったらええんや。ところで、神崎川先生、どこか知らん?」

「えっと、少し前に購買のほうへ行きはったみたいやけど」

「すれ違うてもうたんか。半年後に数寄屋橋かなぁ」

「いつの時代よ。今は、誰でも簡単に連絡し合えるんよ」

「便利になった反面、ロマンスに欠けることで。あぁ、そうや。この前は、チョコレートをどうも」

「こちらこそ、おおきに。でも、あれは、ほとんど秋さんが作ったようなものやから」

「こっちも十中八九は、会計さんの手によるもんやから。でも、チョコレートは一度にぎょうさん食べるもんやないね。ニキビが出来てしゃあない」

「そうやね。わたしも、吹き出物には往生してるんよ」

「余計なお節介かも知れへんけど、部長さんの場合、前髪を上げるか、短く切るかすれば、解決すると思うで?」

「こうやって? おでこが広いからなぁ」

「そんなことあらへんって。それで、原稿は進んでるん?」

「えぇ、何で知ってるん?」

「あぁ、しもうた。書記さんに聞いたことを、本人にも言うたらあかんのやった。でも、この前の交換会のメンバーのうち、この高校に通うてる人間は、みんな知ってることやからなぁ」

「そんなに、広まってたんや」

「心配せんでも、それで壁を造るような料簡が狭い人たちとは違うから。それに正直、羨ましい」

「何も羨ましいことあらへんよ」

「そうでもないねん。部長さんは当たり前に思うてることでも、不肖、中之島正にとっては、当たり前でないことが多いねん」

「例えば?」

「中之島家では、マンガ禁止やねん。読むのはもちろん、書いてもあかんねん。だから、好きにマンガの描ける環境があるのが羨ましい」

「わたしの家は、パパとママが印刷会社を経営してるから、要らん紙はなんぼでもあって、安く冊子を作ることも出来るっていうだけで」

「いやいや。それが、ええんやって。あ、そうや。今、隊長と話してるところやねんけど、今度、記者倶楽部で、簡単な広報誌を作ろうって話が上がってるねん。スポンサーになってくれへんかなぁ。費用は倶楽部で負担するし、片手間仕事で構わへんのやけど」

「ええよ。わたしで良かったら」

「よっしゃ」


「何してるの、中之島くん」

「あ、神崎川先生」

「足を捻挫したそうです」

「あらあら。これはすぐに冷やさないと。中之島くんにも水枕が必要ね。中身は氷水だけど」

「それにしても、どうして捻挫したん?」

「雪遊びの魔力に逆らえなかったもんやから。はぁ。これは家に帰ってから、内田さんに『はしゃぎすぎやで。これに懲りたら大人しゅうしとき』って言われるパターンやな」

「内田さんって?」

「内田梢さん。家のことを、あれこれしてくれはるお手伝いさん」

「中之島くん、それ、当たり前やと思ってる?」

「え、違うん?」

「はい、これ。腫れが引くまで、奥のベッドで安静にしとき」


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