第4話「弥次喜多道中、八兵衛付き」
「まさか、旅行先が鎌倉とはなぁ」
「ええやん。いっぺん来てみたかったし」
「明日は横浜ですからね。期待しとってください」
「大仏なら、奈良に屋根付きでもっと大きなのが居てるし、中華街なら神戸の南京町があるやん」
「まぁ、そう言いな。こっちには鹿せんべいと違うて鳩サブレーがあるし、豚饅と違うて焼売があるんやで?」
「食べる物ばっかしやな」
「隊長は、食いしん坊ですねぇ」
「そんなこと、あらへん」
「……腹の虫のほうは正直やな」
「ここらで一旦、観光を休んで、少し早い昼食にしましょうか。この先に穴場の名店があるんです」
「この前みたいに、ゲテ物の店やないやろうね?」
「今のうちに、漢方薬を飲んどこうかな」
「神奈川まで来て、そんな冗談はしませんって。行かなかったら絶対後悔しはること間違い無しの店なんです」
「力説しすぎて、表現が被ってるで」
「まぁ、行って見てから考えようや」
「せやなぁ。もし、しょうもない店やったら、その辺の電柱に吊るすからな。覚悟せぇよ」
「明日天気にしておくれって寸法かいな」
「涙雨でも、首は切らんといてくださいよ」
「どうです? なかなかええ所やと思わはったんちゃいます?」
「悔しいが、絶品やったな」
「内装も綺麗やったし、店員の接客もそつないし、店全体の雰囲気も和やかで、ゆっくり楽しめたもんね」
「大通りには面してないから、騒音は少なかったな」
「隠れ家っちゅう感じやね」
「そうでしょう、そうでしょう」
「冬彦と西園寺も来れば良かったのに」
「ほんまになぁ。絶対、二人とも喜んだやろうに」
「中之島はお二方も、再三再四、お誘いしたんですよ」
「あまりにもしつこいから、逆効果になったんと違うかなぁ」
「あたしらが誘えば、乗って来たかもしれんなぁ」
「次回は五人で来ましょう」
「今度は、いつになることか。あ」
「どうしたん、春樹。あ」
「雨が降ってきてしもうたようですねぇ。急ぎましょう」