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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
39/164

第39話「蛇行運転」

『この先、カーブが続きます。思わぬ事故や、お怪我防止のため、吊り革、手すり、座席縁などにおつかまりください』

「いつも、ここを通過する時に気になっているんだけど、どうして、道路の真ん中にある、あの大きな岩を撤去しないんだろう?」

「撤去したくても、出来へんわけがあるんよ。この辺の公立小学校に通うとった人やったら、みんな知ってる話なんやけどな」

「どんな話なの?」

「地域学習で、語り部のお婆さんから聞いた民話でな。細かいところは忘れてしもうたけど、思い出しながら話すわ。何しか『怒りの岩』ってタイトルやった」

「面白そうだね」

『次は橘町二丁目、橘町二丁目でございます。植物園へは、次の橘町二丁目のお降りが便利です』

「むかしむかし、山にどっかり腰をすえ、天に向かってそびえ立つ、大きな大きな岩がありました」

「さっきの岩だね」

「人々は、それを竜神様の岩としておそれ、大切にしてきました」

「由緒ある岩なんだ」

「大阪城の石垣を築く工事が始まったころのこと」

「ざっと、四百年あまり前だね」

「城の石垣にすれば、さぞ見事なものであろうと、村の侍たちは考えました」

「あれだけ立派な岩だものね」

「村の百姓たちは心配しました。神の宿る岩のこと。運び出せば、どんな祟りがあるやもしれんません」

『このバスは、両替方式です。釣り銭がいらないよう、ご用意を願います』

「続けて」

「侍たちに連れられた石切職人が、岩を切り出す作業にかかりました」

「いよいよだね」

「のみを打つたびに、火花が散り、岩の裂け目から白煙がふき出し始めました」

「ねぇ。これ、怖い話?」

「ここで、止めとこか?」

「でも、続きが気になるなぁ」

「恐ろしい話ではあるんやけど、続けるわね。煙は白から黄、赤、青、そして黒へと変わり、ものすごい勢いで音を立てて吹き出しました」

「大変なことになってきた」

「その熱気を浴びた職人は、手足が震えだし、苦しみ悶えながら転がり落ち、やがて息絶えてしまいました」

「かわいそうに。それで、侍たちは?」

「侍たちも、さすがに震え上がり、命からがら逃げ出しました。今でも、岩の上には、その時の鑿の痕が残っているとか。おしまい」

「何だか、職人が報われない話だね」

「士農工商の社会やったからと違う?」

「そうかなぁ。腑に落ちないけど」

『次は桜町九丁目、桜町九丁目でございます。市営総合運動場へは、次の桜町九丁目のお降りが便利です。次、止まります』

「あ、もう降りんと。じゃあね、冬彦くん」

「南方さん、また月曜日に」

「さいなら」

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