第38話「数え歌」
「いーちー、にーいー、秋刀魚の、尻尾、ゴリラの、息子、菜っ葉、葉っぱ、腐った、豆腐。これは、これでよしと。残りは、あと何枚や?」
「一包みあたり五十枚だから、あとは百五十枚弱かな」
「ようやく、全体の四分の三を越えたんやね」
「往復はがきの宛名シール貼りほど、生徒会役員として地味な仕事も無いやろうなぁ」
「僕の会計職や西園寺さんの書記職には、これに匹敵する仕事は枚挙に暇が無いけど、会長職には無いかもね」
「それは、遠回しな批難と受け取ってええんか?」
「手が止まってるよ、二人とも」
「ほんまに、七面倒くさいことを押し付けてくれたもんや。あの、無責任男め」
「数学の成績に、色をつけて欲しいよね」
「色付けなあかんほど、成績悪ぅないやん、北条くん」
「そういう西園寺かって、補習を受けたことないやろうに」
「でも、いいのかなぁ。こうして、来賓の人の名前と住所が、生徒の目に触れちゃってさ」
「生徒会役員やから、ええ加減なことはせぇへんやろうと思うてるんと違うかな」
「一応は、信用されてると言える、かもしれへんなぁ」
「そこまで考えてるとは、到底、思えないけどね」
「チュウ、チュウ、たこ、かい、な」
「人手が欲しいところやな」
「誰を呼ぶのさ。南方さん?」
「夏海ちゃんには悪いけど、せっかく来て貰うても、足手まといになるだけと違うかなぁ。この前の調理実習、例によって同じ班やってんけど。卵は割られへんし、りんごも満足に剥かれへんことが判明したんよ」
「手先が不器用なんやな」
「繊細な作業には、向いてなさそうだね」
「それだけや無いんよ。同時並行で物事を進めたり、順番を考えたりせんと、行き当たりばったりで行動するもんやから、何回『待って』って言うたか」
「段取りも甘いんやな」
「直列回路だね」
「しまいには、今は調理済みの食品が充実しているから、たとえ料理ができへんかったって、死にはせぇへんって開き直ってしもうたし」
「言っている内容は、あながち間違うてへんけど、それを言ってしもうたら、家庭科の授業の存在理由が無くなってまう」
「被服にしても、既製服が充実しているもんね」
「いーちー、にーいー、さーんー、しーいー、ごーおー、ろーくー、しーちー、はーちー、くーうー、じゅう。これで一包み終わったから、残りは、あと百枚やね」
「もう一息やな」
「頑張ろう」




