第37話「ボディー・マス・インデックス」
「大丈夫、夏海ちゃん?」
「あたしはもう大丈夫やから、秋ちゃんは早う教室に戻り」
「ほんなら、また後で様子を見に来るわね。失礼しました」
「……心配かけてしもうたなぁ」
「無理な食事制限をするから、貧血で倒れるのよ。ホントに、どうしてダイエットって言うと、猫も杓子も食事量を減らすことしか考えないのかしら」
「でも、出演してるモニターの人は、たしかに痩せてはるけど?」
「マスコミの悪影響ね。摂取する量が急に減るから、一時は体重は落ちていくわ。でもね、そうなるとわたしたち人間の身体は、飢餓状態だと勘違いして、脂肪を蓄えていくようになるの」
「そんな、飢餓状態や、なんて」
「決して、大袈裟に言ってるんじゃないのよ。貧困にあえぐ国の子供が、お腹だけ膨らましてるニュース写真や映像を観たことがあるでしょう? 栄養の偏った食事を続けると、遅かれ早かれ、最後にはああなってしまうのよ」
「嫌やわ、そんなん」
「そうでしょう」
「でも、この冬で二キロも太ってしもうたんよ、神崎川先生」
「南方さんの場合、元々が痩せ型なんだから、二キロくらい増えたほうが、かえってちょうど良いくらいよ」
「秋ちゃんより重くて、冬彦くんと同じくらいでも?」
「体重は、他人と比べるものじゃないわよ。ここに電卓があるから、体重をキログラムで入力してちょうだい」
「はい、先生」
「身長は、百六十センチを超えてるわね?」
「はい。百六十二です」
「えーっと。そうすると、南方さんのビーエムアイは二十一弱ね。ほぼほぼ理想の数値じゃないの。何も心配する必要は無いわね」
「失礼します。南方さんは?」
「奥のベッドよ」
「あ、春樹」
「冬彦から聞いたんやけどな。南方、貧血で倒れたそうやないか。もう、何ともないんか?」
「平気、平気。その紙袋は何なん?」
「アップルデニッシュ。さっきまで、一組は調理実習やってん。同じ班になった冬彦が、南方の元気が湧く美味しい物を作ろうって言うもんやからな」
「今週は、パンケーキと林檎ジャムのはずと違うかった? ずいぶんな変貌を遂げたんやね」
「違う意味で変貌を遂げて、西園寺を困らせるなよ。作り立てやから、火傷せんように注意せぇよ」
「ありがとう。冬彦くんにも、あとでお礼言わなあかんなぁ」
「冬彦には、俺から伝えておく。ほんなら、俺はこの辺で」
「まだ次の授業まで時間があるんやから、春樹も食べたらええやん」
「俺が食べてどないするねん、今、血となり肉となるものが必要なのは、南方やろ?」
「こういうものは、一人で食べるより二人で食べたほうが、満足感が高いんよ」




