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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
35/164

第35話「さいなら」

『発車します。ドアにご注意ください』

「卒業した今になって振り返ると、中学は変な校則が罷り通ってたよな」

「中学生らしい、健全で清潔感ある風貌を維持すること。中学生らしいって結局、よぅ分からんよね」

「ほんまにな。時代遅れや」

「染髪、脱色、パーマネント禁止やったよね」

「段カット、剃り込み、リーゼント禁止っていうのもあったな。いつ出来た校則なんやろうな」

『次は西町七丁目、西町七丁目でございます。厄除稲荷へは、次の西町七丁目のお降りが便利です』

「時代遅れといえば、喫茶店、カラオケボックス、ゲームセンター、その他、中学生に相応しくない遊興施設の利用禁止っていうのも、あったやん」

「こっそり利用して、学年集会で吊るし上げになった奴も居ったな」

「有職青年との交際、また不純異性交遊の禁止。何が不純か曖昧やし、働いてる人より、むしろ働いてない人のほうが怪しいと思うわぁ」

「せや、せや。第一、人権侵害や。あとは、靴下は白のみ。通学には運動靴を履き、革靴、下駄、その他の履物を禁ずるというのもあったな」

「革靴はともかく、下駄で登校する子が居たんやろうか? アクセサリー関係では、ピアス禁止。髪留め、防寒具、その他服飾雑貨は、黒、紺、茶色を基調とする華美でないものとする、やったよね?」

「そうやったな。それから運動時は、体操服の上にジャージを着用してはならない。寒さで風邪を引きかねへんというのに」

「隣の教室へ行ってはいけないっていうのも、あったわね」

『危険ですので、走行中は、席をお立ちにならないよう願います』

「制帽の着用、制鞄以外の鞄の使用の禁止」

「せめて防水してほしいよね。制帽はフェルトやし、制鞄は帆布製やもん」

「ノートや教科書が濡れると、乾いても波立ったままになるもんな。あと、自転車通学禁止やったな」

「事故を防ぐためという名目やけど、実際のところ、駐輪スペースが確保できへんからやろうね」

「市立第一時代から使うてる旧校舎群を建て替えて、五階建てぐらいの校舎にすれば、スペースが空きそうなものやけど」

「市の文化財に指定されてるし、財政が厳しいから補修が限度で、建て替えは難しいんと違うかな。旧校舎の廊下は桜の樹の板張りやったけど、冬の夕暮れ時とか、怖くなかった?」

「あぁ。ちょっと、おっかなかったな。節目が目ぇみたいに見える時があらへんかった?」

「あった、あった。そうそう。もっと可愛い制服やったらええのにって思うこともあったわぁ」

「どこも対して変わらんけどな。楠川は男子が詰襟で女子がブレザー、楠池は男子がブレザーで女子がセーラー」

「付属が詰襟で、白蘭会がセーラー。一度、セーラーを着てみたかったわぁ」

「頭は悪くないんやから、白蘭会を受ければ良かったやん」

「でも、共学に進みたかってんもん。学区制やなかったら絶対、楠池を選んだわ」

『次は寿町三丁目、寿町三丁目でございます。市立総合病院へは、次の寿町三丁目のお降りが便利です。次、止まります』

「もう降りなあかん。ほんじゃ西園寺、さいなら。また明日な」

「さいなら、春樹くん」


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