第33話「喫煙と肥満」
「大石先生。禁煙されたんやなかったんですか?」
「しましたよ、住吉先生。三日ほど」
「三日坊主では、教員として示しがつかへん。弛んどるぞ、大石くん」
「三つ子の魂、百までですよ。分かってはいるけど、止められません」
「そんなことやから、生徒から無責任男というあだ名を付けられるんや。それに、少しは健康のことを考えんといかん。儂と一緒に毎朝、走らんか?」
「それはええと思いますわ、大物先生」
「遠慮します。僕より、野田くんのほうが適任やと思いますし」
「野田先生も、恰幅が良すぎるわねぇ」
「よし。野田くんと走ろうかな」
「そうしてください。僕はホームルームがあるので、この辺で」
「大石先生」
「野田くんやないか。どうした?」
「どうしたも、こうしたもありませんって。大物先生の厄介な思い付きを、俺に押し付けたでしょう」
「僕は、君のためを思うて、そう言うたんやけどなぁ」
「おかげで、毎朝四時起きですよ」
「健康にええ習慣ができたやないか」
「他人事やから、暢気に構えてられるんですよ。当事者には、堪りません」
「野田先生」
「あぁ、西園寺くん」
「これ、今度のホームルームで配る資料です」
「ご苦労さん」
「先生、少し痩せたように思いますけど、ダイエットを始められましたか?」
「野田くんは毎朝、大物先生と走ってるんだよ、西園寺くん」
「へぇ。ここ最近、朝のホームルームで寝惚けた声をしてはらへんなぁという話を、南方さんとしてたところです。そういう訳があったんですね」
「まだ始めたばかりやから、慣れへんけどな」
「絶対に続けたほうが、ええと思いますよ。それでは、失礼しました」
「資料、おおきにな」
「大物先生に、野田くんが迷惑がってたって伝えようか?」
「大石先生。先生は、会話文の読解力が足りてないと思います」
「あいにく、担当は数学科やからな」