第32話「今だけ男」
「夏海ちゃん」
「秋ちゃんか。お早う」
「お早う。用具倉庫のほう、見て」
「ん? あれは、鳳さんやね。何で、あんなところに居るんやろう?」
「一緒に様子を見に行かへん?」
「気になるなぁ。行ってみようか」
「ほんまに、あの白蘭会中学の出身なんか? この不細工。ニキビ面」
「お嬢様校を出てる割には、根暗よねぇ」
「……白蘭会中学を卒業してるのに」
「え、何て? 古ぼけメガネ」
「聞こえへんよぉ、この愚図」
「……このメガネは、お婆様の形見なのに」
「だから、もっとハキハキ喋れって言うてるんやけど?」
「あんたのせいで、クラスの士気が下がってるのよ」
「華梨那ちゃん」
「秋さん」
「三階から鳳さんの姿が見えたから、来たんやけど」
「夏海さんも。助けて」
「ここは、あたしに任せて」
「俺らは、そいつに用があるんやけど、お前らは何者や」
「あとから来て、邪魔せんといてくれる?」
「あたしの女に手を出しといて、よぅ言うわ」
「夏海ちゃん?」
「ハハハ。格好だけやなくて、頭も頓珍漢なんやな」
「女のくせに、女が好きなんや。傑作やね」
「体は女でも、心は男や。男が女を好きになって、何がおかしいんや?」
「あっち行こう。阿呆が伝染する」
「行こう、行こう」
「……おおきに」
「夏海ちゃん、格好良かったわ」
「怖かったわぁ。今の言動は忘れてな、二人とも」
「今の二人は?」
「同じクラスの人みたいやったけど」
「委員長と、副委員長です」
「委員長としての権威を傘に来て、ろくなことをせぇへんなぁ」
「本当ね。せやけど、夏海ちゃんが、オナベさんやったとはなぁ」
「意外ですよね、秋さん」
「違うねんて。本気にせんとってよ」
「そんなことがあったんですね、隊長」
「そうなんや。この子を虐めると、得体の知れないものに係わると思うたら、手ぇ出さへんやろう?」
「よくもまぁ、咄嗟にそんなことを思い付くもんやなぁ、南方」
「賢いやろう? 褒めてもええで」
「調子に乗るんやない」
「ひ、東野くんたち」
「冬彦、どないしたんや、そんなに慌てて。校内履きの裏に画鋲が刺さってるで」
「カンカン、音が鳴ってるもんね。幽霊でも居ったん?」
「楠山高校の本校舎の三階男子トイレには、北校舎の屋上で自殺した生徒会長の霊が現われるという」
「勝手に俺を殺すな、中之島。あれは、未遂やったやろうが」
「お手洗いに入ったら、購買の御影さんが居たんだよ」
「女子のほうに入ったんですか?」
「ちゃうちゃう。おそらく、冬彦は間違えてへんのやろう」
「御影さんが、今だけ男ルールを使ってたんや」




