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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第1部
32/164

第32話「今だけ男」

「夏海ちゃん」

「秋ちゃんか。お早う」

「お早う。用具倉庫のほう、見て」

「ん? あれは、鳳さんやね。何で、あんなところに居るんやろう?」

「一緒に様子を見に行かへん?」

「気になるなぁ。行ってみようか」


「ほんまに、あの白蘭会中学の出身なんか? この不細工。ニキビ面」

「お嬢様校を出てる割には、根暗よねぇ」

「……白蘭会中学を卒業してるのに」

「え、何て? 古ぼけメガネ」

「聞こえへんよぉ、この愚図」

「……このメガネは、お婆様の形見なのに」

「だから、もっとハキハキ喋れって言うてるんやけど?」

「あんたのせいで、クラスの士気が下がってるのよ」

「華梨那ちゃん」

「秋さん」

「三階から鳳さんの姿が見えたから、来たんやけど」

「夏海さんも。助けて」

「ここは、あたしに任せて」

「俺らは、そいつに用があるんやけど、お前らは何者や」

「あとから来て、邪魔せんといてくれる?」

「あたしの女に手を出しといて、よぅ言うわ」

「夏海ちゃん?」

「ハハハ。格好だけやなくて、頭も頓珍漢なんやな」

「女のくせに、女が好きなんや。傑作やね」

「体は女でも、心は男や。男が女を好きになって、何がおかしいんや?」

「あっち行こう。阿呆が伝染する」

「行こう、行こう」

「……おおきに」

「夏海ちゃん、格好良かったわ」

「怖かったわぁ。今の言動は忘れてな、二人とも」

「今の二人は?」

「同じクラスの人みたいやったけど」

「委員長と、副委員長です」

「委員長としての権威を傘に来て、ろくなことをせぇへんなぁ」

「本当ね。せやけど、夏海ちゃんが、オナベさんやったとはなぁ」

「意外ですよね、秋さん」

「違うねんて。本気にせんとってよ」


「そんなことがあったんですね、隊長」

「そうなんや。この子を虐めると、得体の知れないものに係わると思うたら、手ぇ出さへんやろう?」

「よくもまぁ、咄嗟にそんなことを思い付くもんやなぁ、南方」

「賢いやろう? 褒めてもええで」

「調子に乗るんやない」

「ひ、東野くんたち」

「冬彦、どないしたんや、そんなに慌てて。校内履きの裏に画鋲が刺さってるで」

「カンカン、音が鳴ってるもんね。幽霊でも居ったん?」

「楠山高校の本校舎の三階男子トイレには、北校舎の屋上で自殺した生徒会長の霊が現われるという」

「勝手に俺を殺すな、中之島。あれは、未遂やったやろうが」

「お手洗いに入ったら、購買の御影さんが居たんだよ」

「女子のほうに入ったんですか?」

「ちゃうちゃう。おそらく、冬彦は間違えてへんのやろう」

「御影さんが、今だけ男ルールを使ってたんや」


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