第30話「似たもの姉弟」
「ジンバブエは南米?」
「アフリカよ、夏海ちゃん」
「デンヴァーは、アメリカの州の名前やったっけ?」
「コロラド州の都市名だよ」
「アルジェリアの隣は、ナイジェリア?」
「二つの国の合間には、ニジェール挟まっとるよ」
「ほな、パラグアイとウルグアイが隣か」
「いいや。あいだにアルゼンチンがあるよ」
「何で、一生に一度行くか行かへんか程度やろうに、世界の国や都市の名前を覚えないといかんねやろう?」
「嘆いても、暗記できへんよ」
「ロンドンは、何気候やったっけ?」
「西岸海洋性気候で、ニュージーランドと同じだよ」
「東京と同じ気候なんはどこ?」
「ブエノスアイレス。気候名は、温暖湿潤気候よ」
「初めに地名を付けたり、気候や植生を分類しようとしたりした人は、いったい何を考えていたんやろうなぁ」
「少しでも地球のことが理解できれば、自然との共存に役立つと思ったんだろうね」
「どれだけ研究が進んでいるんか知らんけど、明日の天気一つ完璧に正確な予想ができへんのに、本当に役に立っているんか疑問ではあるわね」
「経済評論家の言う、来期の景気予想みたいなものだね」
「その心は?」
「時々刻々の数値は正確に計測できても、将来の雲行きはわかりません」
「座布団一枚」
「この調子では、再試験の先行きも不透明やねぇ」
「フッ。悪足掻きは止めて、己の宿命を甘受すれば良かろうに」
「あ、弟くん」
「お帰り、朱雀くん」
「ろくに勉強もせんと、赤点ぎりぎりを低空飛行するあんたと一緒にせんといて」
「本能寺の変やオームの法則が、実生活の何に役立つというのだ」
「三年になってから慌てても知らんから」
「その言葉、一字一句違えず、熨斗を付けて返す」
「微笑ましい光景やね、北条くん」
「そうだね、西園寺さん」




