第29話「鬼に金棒」
「鬼は、外」
「俺ばっかり狙うんやない、青衣」
「鬼は、外」
「朱雀、あんたもや」
「ふっ。根拠の無い言いがかりは、よしてもらおう」
「皆さん、恵方巻きができましたよ」
「豆撒きは、その辺で」
「あぁ、内田さんと」
「中之島画伯」
「やめてください、隊長。褒めても何も出ませんよ」
「でも、良ぅ出来てると思うよ、このお面」
「鬼が持つ、人間を阿鼻叫喚の地獄へ叩き落すおどろおどろしさ。それがこの、キュビスムとシュールレアリスムが渾然一体となった描線に躍動しているのだ」
「うまいこと、ええ感じに仕上がったもんやね」
「適材適所だね」
「今年の恵方は南南東だそうです」
「南南東っていうと、こっちやね?」
「……そっちは北北西や、西園寺」
「秋ちゃん、相変わらずやね」
「そのうち、分かるようになるよ、西園寺さん」
「方位が分からずとも、現代社会を生き抜く上で、何の支障もないではないか」
「気にすることないですよ、秋お姉ちゃん」
「さて、みなさん。用意はできましたか? それでは、絶対に喋ってはいけない恵方巻き二十四分をはじめます」
「どっかで聞いたようなネーミングやな」
「会長、アウト」
「ちょっと、笑かさんといてよ」
「あかん。思い出したら、笑うてまうわ」
「これは反則だよ」
「不意打ちとは、卑怯なり。さては、上級者か」
「ハハハ」
「残り全員、アウト」
「さて。まずは春樹くんからやね」
「内田さん。その布団叩きは、まさか」
「個人的な恨みはないんやけど、正くんが決めたルールやから。それじゃあ立って、向こう向いてね」
「中之島。明日、覚えとけ」