第28話「寒中見舞い」
「八度七分か。ほとんど下がってへんなぁ」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「平気や、心配せんでええ。よぅ寝てれば、すぐに良ぅなる。うつったらあかんから、下でテレビでも観とき」
「ほな、下に居るわな。何か居るもんある?」
「無い、無い。早う下に行き。……あと、もう少し寝とくか」
『春樹。お母ちゃん、パートに行ってくるさかい、大人しゅう寝とくんよ』
「母ちゃん」
『もしも何かあったら、すぐに連絡するんよ。連絡先は分かってるわね?』
「うん」
『ほんじゃあ、おやすみ、春樹』
「……おやすみなさい」
「夏海お姉ちゃん。お熱、測ってきたよ。」
「おおきに、青衣ちゃん。うーん、七度九分か。まだ平熱には程遠いなぁ」
「お兄ちゃん、元気になる?」
「任しとき。あたしが来たから、たちどころに良うなるで。これでも朱雀が熱を出した時は、よぅ看病したもんや」
「頼もしいわぁ」
「ほんなら、南方家特製、風邪が吹っ飛ぶ魔法のお粥の作り方を伝授するわな。見習いさん、準備はよろしいか?」
「はい、魔女さん」
「そしたら、まずは材料な。用意するのは、お米と玉子。そして、これや」
「からし?」
「ハズレ。チューブ入りの生姜や。隠し味にこれを入れるのが、秘訣や」
『ずっと春樹のそばに付きっ切りで居りたい気持ちは山々なんやけど、お母ちゃんは、そうはいかへんの』
「どこへ行くん?」
『春樹はお兄ちゃんなんやから、これぐらい我慢できるやろう?』
「何で?」
「春樹?」
「何で、あかんねや」
「わ、びっくりした」
「え、何で南方が、ここに居るんや?」
「テレビ観とったら不安になった青衣ちゃんが、あんたの端末を使うて連絡してくれたんよ」
「ごめんなぁ、お兄ちゃん。勝手に履歴、見てもうた」
「青衣、お前」
「謝ってるんやから、怒りなや。それより、これ」
「何や、これ。玉子粥か? 食べても、人体に悪影響は無いやろうな?」
「問題あらへんよ。青衣ちゃんに味見してもうたから」
「お兄ちゃん、お味は?」
「悪くない」
「素直に美味しゅうございます、って言うてくれてもええんやで?」
「お兄ちゃんが一言『悪くない』って言う時は、ケチの付けようが無いって意味やねんで、夏海お姉ちゃん」
「へぇ、そうなんや」
「要らんこと言うんやない」
「照れとるわ。耳が真っ赤やで」
「ちゃうちゃう。これは、熱の所為や」




