第26話「真夜中の」
「中之島か。こんな時間に何の真似やろう、まったく」
『いつも皆様に笑顔と元気をでお馴染み、にこやか、すこやか、中之島正です』
「切るで」
『待ってください。会長にまで断られたら困りますよぅ』
「他に誰に掛けたんや、こんな遅うに」
『会計さんと書記さんです。会計さんは無言で、書記さんはおやすみと一言言われてから切られてしもうたんです』
「そうか。また明日、学校でな」
『明日というより、今日ですって。望遠鏡を担いで全力疾走する時間ですよ』
「彗星は見えへんと思うがな。あまり無駄口叩いてると、隣の部屋の青衣が起きてしまうさかい、手短にな」
『早朝六時に、生徒昇降口に集合です』
「わかった。行けたら行くわ」
『会長』
「……今頃、南方に電話してるんやろうなぁ、中之島」
「副長からや。はい、こちら南方。どうぞ」
『こちら中之島正。天気晴朗なれど浪高し。どうぞ』
「夕方の予報では雪のはず。そして時刻は午前二時を回っている。続きは高校で伺いたし。どうぞ」
『已むに已まれぬ事情あり。会話の継続を希望す。どうぞ』
「草木も眠る丑三つ時に通信とは。さては密偵だな? 実の姉に諜報されていたとは、南方朱雀、一生の不覚」
「あぁ、少々待たれよ。早う自分の部屋に行き、朱雀。さっさと寝な、また朝、起きられへんよ?」
「我が頭脳に掛けられし、暁の光を認識不可にするクロノスの呪いを解かねば、早朝に活動をすることは叶わぬのだ」
「夜中に騒いでたら、お母ちゃんに怒られるで」
「はっ、それは不都合だな。致し方ない。ここは戦略として一時退却しよう。覚えておくが良い」
「ほんま、日が沈むと調子が昂ぶるんやから、厄介やわ。副長、応答されたし。どうぞ」
『くっ、我が右眼に封印されし魔物が暴れだしたか』
「聞こえてたんやね。魔物のことは置いといて、用件をどうぞ」
『曙に時の針が直線を差す刻限、血塗られた冷たい広場で待つ』
「朝の六時に、赤レンガやね?」
『左様然り。さらばだ』
「……行くとは、一言も言うてへんのに。早とちりやなぁ」
「何で誰も来てくれへんかったんですか。ずっと待ってたんですよ?」
「あんな非常識な時間に掛けてくるほうが悪いわ、中之島くん」
「寝込みに電話を掛けて来るような人間に、付き合う人間が居るわけないよ、副長くん」
「大体やな。徒歩通学のお前と違うて、俺らはバス通学なんや。ゼロ便にでも乗らん限り、六時には間に合わへん」
「運動部でもないのに、ゼロ便に乗る気ぃせぇへんわ」
「そんなぁ」




