第24話「攻められる東野」
「今度の保育所での読み聞かせ、何の話が良いかな?」
「この前は、白雪姫やったから、今度は日本の話がええんと違うかな」
「鶴の恩返しとか、浦島太郎あたりはどうや?」
「鶴は去ってしまうし、浦島は孤立してしまうからなぁ」
「ハッピーエンドの方がええと思うわ。桃太郎はどない?」
「桃太郎かぁ」
「僕は良いと思うけど」
「腑に落ちない顔やね、春樹くん」
「小学生の頃、よぅ妹にせがまれて読んでやったんやけど、質問ばっかりで、ぜんぜん先に進まへんかったんや」
「青衣ちゃんらしいわぁ」
「質問って、どんな?」
「『昔っていつのこと、昭和?』とか」
「写真も残ってないから、少なくとも江戸以前だよね」
「『あるところって、どこ?』とか」
「おそらく、今の岡山県のどこかやろうね。きび団子が出てくるし」
「『鬼が島って、どんな島?』とか」
「桃太郎が岡山県民なら、瀬戸内海に浮かぶ島だよね」
「『何で動物をお供にするんよ、お友達は居らんの?』とか」
「誘ったけど、断られたんかもしれへんね。危険やもの」
「こんな調子で矢継ぎ早に訊いてくるもんやから、鬼が出てくる前に疲れてしもうて」
「大変だね」
「えらかったね、春樹くん」
「ほんまになぁ」
「でも、大丈夫だよ。三歳児が、そこまで深入りした質問はしないよ」
「この前やって、『美人なら勝手に他人の家で飲み食いしてもええの?』とか『何で継母は、こんな回りくどい方法で白雪姫を殺そうとしたのん?』とかいう質問はなかったやん」
「どこぞのフグ田家の子供みたいに、賢い子が居らんとも限らんけどな」
「アニメと現実は違うよ」
「そんなこと言い出したら、あんな聞き分けの良い一歳児も珍しいよ?」
「そうやな。ひとまず、桃太郎をやるとして、誰が何の役をするかやけど」
「僕、お爺さんとナレーション」
「うち、桃太郎とお婆さんと動物たち」
「ちょっと待て。あと、鬼しか残ってないやないか」
「ちょうどええやん」
「そうそう」
「また、面倒な役になりそうや」




