第23話「司書と秘密の部屋」
「悪いわね、手伝わせてしまって」
「いいんです。こういう作業は、好きですから」
「これ、今度アニメドラマ化される小説ですよね、岡本先生」
「そうよ。原作に触れてもらおうと思って、発注したの。それにしても、五月雨式に送られてくるのが溜まっちゃってたから、助かるわ。司書として仕事を溜めるのは、よくないんでしょうけどね」
「先生も、お忙しいんでしょう?」
「こんなにたくさんの本を、一人で管理するのは大変な仕事ですよね」
「そうでもないわ。今やってる分のラミネートが終わったら、終わりにして良いわよ」
「でも、まだ始めの半分近く残ってますよ?」
「僕たちも最後までやりますよ」
「そう。じゃあ、やり切ってしまいましょうか」
「調べ物から帰って来ぇへんから、どないしたんやろうと思うとったら」
「あ、春樹くん」
「東野くんも、一緒にやろうよ」
「それより、資料は見つかったんか?」
「カバンの横に積んであるのが、それだよ」
「はぁ、結構あったんやな。これだけ色々あれば、何とかレポートはまとまりそうやな。ほんなら、俺も手伝おうか」
「あら、助かるわ。ところで、レポートは誰先生の課題なの?」
「社会科の住吉先生です」
「毎週末の授業で課題を出て、週の頭の授業で提出するんです」
「評価が辛いから、手を抜けないんです」
「変わってないわね、鉄の女は」
「前からそうなんですか?」
「そのあだ名を知ってはるということは」
「岡本先生って、ここの卒業生なんですか?」
「そうなのよ。わたしが通ってた頃から、社会科の住吉先生は鉄の女で、体育科の大物先生は熾熱燈って呼ばれていたの」
「卒業アルバムが後ろの棚にありますけど」
「目敏いな、西園寺」
「見てもいいですか?」
「ちょっと恥ずかしいんだけど、見たければどうぞ。はい」
「あ、四組に。先生、若い」
「この頃は詰襟とセーラー服だったんですね」
「前身ごろにボタンが無いタイプね」
「山手にあるのに、海軍型の学生服だって、他校からよくからかわれたものよ」
「鉄の女も、熾熱燈も、白髪が生えたり、生え際が後退したりする前やな」
「先生、スタイルいいですよね。モテたんじゃありませんか?」
「楽しかったですか、高校生活」
「それほどモテはしなかったし、何かと忙しかったけど、面白い毎日だったわ」




