第22話「セカンドオピニオン」
「喘息持ちなのね。発作は収まったみたいだけど、横になる?」
「ここで大丈夫です、神崎川先生」
「無茶しないほうが治りが早いわよ。あ、はい。保健医の神崎川です」
「無理しないほうが良いよ、東野くん」
「ほんまに、もう平気やから」
「そう? それじゃあ、僕は授業に戻るよ。持久走の途中だったから」
「あぁ。心配かけて悪かったな」
「気にしなくて良いよ。僕が勝手に付き添ったんだから。失礼しました」
「悪いけど、ちょっと席外すわ。奥のベッドは空いてるから、しんどくなったら横になってね。すぐ戻るわ」
「はい、わかりました」
「……保健室の先生って、お忙しいんやね」
「あぁ、西園寺も居ったんか。また、耳鳴りか?」
「そうよ。小さい時ほどは酷くないんやけど、授業に集中できへんから抜けてきたんよ。音楽家の一人娘が、左耳が不自由なんてねぇ」
「父ちゃんがピアニストで、母ちゃんがバイオリニストやからって、西園寺まで音楽家になる必要はあらへんやろう? 俺やって親の会社に勤めるとは限らへんし」
「それは、サラリーマンやもん。事情が違うてる」
「何にも違うてへん。中学に上がってから、小母さんの店を手伝うてみて、自分はこっちのほうに向いてるん違うかって、この前、言うとったやないか」
「それは、そう言うたけど、それはそれ、これはこれやって」
「それとこれは、何ぞ違うことあらへんやないか」
「違うてへんことあらへん」
「分からず、屋や、な」
「ちょっと、全然大丈夫なことあらへんやん。ほんまに、昔から強情なんやから。ほら、しっかり」
「はぁ。情けないなぁ、俺も」
「吸引薬は?」
「ここんところ、ほとんど発作が起きてへんかったもんやから、家に置いてきた」
「何で置いて来るんよ。信じられへん」
「もう、使わんでも、ええかなぁと思うて」
「勝手に判断したらあかんやん。使わんでも、安心材料として持っておくもんや」
「そうやな。返す言葉もあらへん」
「授業終わったよ、東野くん」
「調子はどない、秋ちゃん」
「うちは、もう治まったみたいやわ、夏海ちゃん。でも春樹くんは、もうちょっと、ここに居ったほうがええんと違う?」
「まだ治まらないのかい、東野くん?」
「おおかたは、ええんやけどな。念のため、主治医に従うとこう」




