第21話「甘いもの神の乙女」
「そんなところに立って何してるの、東野くん?」
「中で西園寺と南方が女子会をしてるんや。それで俺は、誰かが入って来ぇへんように、こうして見張ってるという訳や」
「じゃあ、中に入れないの?」
「男子禁制らしい。また女装するか、冬彦?」
「勘弁してよ。二度とスカートは穿かないから。会話が弾んでるみたいだけど、中で何してるんだろう? 定例会用に昨年度の会計簿を見ようと思って来たのに」
「そのうち終わるだろう。急ぐのか?」
「今日中に手に入ればいいから、急ぎはしないよ」
「話は聞かせてもらいましたよ。ここからは中之島正が、己の灰色の脳細胞を働かせて、真実という緋色の糸を、じっちゃんの名に懸けて選り分け、見事、中の様子を推理してご覧に入れましょう」
「古今東西の探偵が混ざっとるなぁ」
「待っていても暇だから、退屈凌ぎに聞いてみようか」
「中にいはるのは、隊長と書記さんなんですよね?」
「そうや」
「そして扉の下から漂う、この甘い匂いは、もしや」
「エアパイプにエアルーペで推理してるところ悪いが、朝のバスで西園寺が、近所の有名洋菓子店の紙袋を持ってたのは知ってるんや」
「あぁ、あのカタカナ四文字のお店だね。時々お客さんから頂くから、よく知ってるよ」
「出鼻を挫かんといてくださいよ」
「どうも俺は、あの店の商品は甘過ぎて食べられへんねん。妹は好きなんやけど」
「僕もあまり好きではないな。白砂糖の甘さが強すぎる所為で、素材の味が死んでしまって、どれを食べても同じような味に感じるんだよね」
「その、舌にダイレクトに響く甘さが、女子に人気の秘訣なんですよ」
「そうか?」
「多分そうやろうなって。知りませんけど」
「自信満々に責任逃れするんだね。それとも、甘くしないと売れないのかな?」
「あるいは、菓子は甘い物という固定観念が根強すぎるのか」
「三人でどれだけ考えても、正解には辿り着けへんのと違うかと」
「どうしてだい?」
「なぜなら、我々は男子だからである」
「くだらん」
「あぁ、やっぱり。道理で廊下が騒がしいなぁと思っとってん」
「もう入ってええよ、三人とも」
「あぁ、寒かった」
「えぇっと、昨年度の資料は、と」
「以上、現場から中之島正がお伝えしました。一旦、スタジオにお返しします」
「誰に向かって言うてるん、副長?」
「せっかく話がまとまったのに、台無しにせんといてくださいよ、隊長」




