第20話「曙の光」
「凍てる颪は、甲の峰に」
「歌ってないで、手を動かしてよ、東野くん」
「俺やって、箒が余ってたら掃き掃除を手伝うわい。黒板消しを叩きに行った西園寺が戻るまではええやろ? そもそもやな、週末の度に詰まるようなクリーナーを使い続けてるのがあかんのや」
「武庫の浦風、白亜の校舎」
「南方さんまで調子を合わせないで」
「気分が乗らへんのよ。何かしら歌でも歌わんと」
「そうや。朝一番で清掃なんて、誰が考えたんやろうな?」
「熾熱燈と違う? 一年の学年主任やし、ここへ来て長いし、発言力ありそうやん」
「その可能性は高そうやな」
「その線で行くと、あるいは、住吉先生かもね」
「あの鉄の女か。二年の学年主任やしなぁ。『生徒の授業への意欲を高めるために』とか言い出しそうやわぁ」
「はい、春樹くん」
「おおきに」
「何の話をしてたん?」
「教員の誰が、この朝の寒空に、窓を全開にして掃除することを考え付いたかという話や」
「気持ち良く一日をスタートできるんだから、いいと思うんだけどなぁ」
「輝くわれら、楠山校徒」
「あれ、それは二番と違うか?」
「え、そうやった?」
「一番のそこは、始業の鐘の、鳴り響く庭よ」
「ノー・チャイム運動で、チャイムは鳴らんのにな。変な歌詞や」
「それも一番じゃない気がするんだけど」
「違うた?」
「何や、みんなうろ覚えかいな」
「茅渟の水面は、真澄の静寂」
「あ、副長や」
「副長くんだ」
「お早う、中之島くん」
「中之島、一年の持ち場はどうしたんや?」
「上の階から校歌が聞こえてきたので、ここは愛校心の権化、中之島正の出番かと思うたんです」
「答えになってへん」
「聞き返しても無駄やと思うよ、春樹くん。悪いことは言わんから、早う、戻ったほうがええよ、中之島くん」
「中之島はどこ行ったんや」
「ほら、言わんこっちゃない」
「大物先生も、朝から大変だなぁ」




