第19話「禁断の愛」
「ストーカー?」
「そうなんですよ、隊長。参りましたよ、三拝九拝。お助け、会長大明神」
「俺に縋るな。離せ」
「物好きも居たもんやねぇ。それで、相手に心当たりはあるん?」
「一年二組の鳳華梨那って知ってはりますか?」
「バブル姫のクラスだな。俺は知らないな」
「あたしも心当たりが無いわ。クラブとかには入ってへんの?」
「美術部らしいんですけどねぇ」
「あぁ、そういえば楠山祭の展示で、そんな名前があった。珍しい名前やなぁと思ったのを思い出した」
「言われてみれば、そんな名前を見かけたような気がしてきたわ」
「そうでしょう。『鳳さんの絵には魂が篭ってる』って美術の先生もよぅ言うてはったんですよ」
「『そこへ来て、中之島は』と続きそうやな」
「言うたりなや。それで、何を困ってるんよ?」
「廊下や帰り道で、ふとした瞬間に視線を感じるんですよ。そうかと思うて、こっちから話し掛けようとすると、一目散に逃げてしまうんですわ。もう、どうしたらええか」
「見るのはええけど、話し掛けられるのはあかんのか」
「どういうことなんやろう?」
「最近では、ポケットかどこかに凶器を隠し持ってて、襲い掛かる隙を窺ってるんやないかと思うようになって来て、気が気でないんですよ」
「サスペンス劇場やないんやから」
「被害妄想を膨らませすぎやで、副長。ほんまにその気やったら、とうに行動に移してるやろうて」
「お待たせ」
「買ってきたよ、はい、オレンジ」
「冬彦くん、おおきに」
「春樹くんはコーラやったっけ?」
「ちゃうちゃう、それは中之島のや。俺はコーヒー」
「僕たちが購買に行ってるあいだ、何の話をしてたの?」
「鳳華梨那って一年生、知ってるか?」
「華梨那ちゃんなら、よぅ知ってるよ」
「書記さん、お助けてください」
「秋ちゃん、どこで知り合うたん?」
「華梨那ちゃんのお母さんが、うちの店の常連さんなんよ。彪子伯母さんが採寸とかしてるあいだ、手持ち無沙汰な華梨那ちゃんの相手をすることが多かったもんやから」
「その鳳さんが、どうかしたの?」
「なんでも、中之島に付きまとってるらしいんや」
「離れたところから見るだけで、話しかけると逃げるらしいねん」
「ひょっとしたら、今度は中之島くんをモデルに描いてるんかもしれんなぁ」
「何でまた、この中之島正がモデルに選ばれたんやろう。会計さんなら、いざ知らず」
「僕だって困るよ」
「手頃なところからってことやないか?」
「そうやとしたら、秋ちゃんのほうが身近やん」
「モデルは男の人やないと、あかんねん」
「分からないな」
「何でなん、西園寺?」
「気になるわぁ、秋ちゃん」
「勿体つけんと教えてくださいよ、書記さん」
「今から言うことは他言無用よ。約束できる?」
「わかった」
「誰にも言わないよ」
「心配いらへんよ」
「約束しますから、言うてください」
「華梨那ちゃんね、ビーエル漫画の同人作家なんよ」




