第18話「ウェブ騒ぎ」
「お兄ちゃん」
「何や、まだ起きとったんか。小学生は、もう寝る時間やで?」
「そうなんやけどな。トイレについてきて欲しいねん」
「あの漫画、最後まで読んだんやな? おしまいに怖い話が載っとるから、寝る前に読んだらあかんでって言うたやん」
「言うてたけど、あんな怖い話やと思わへんかってんもん」
「別段おどろおどろしいことない、少女漫画にありがちな絵柄やから、油断したんやろ?」
「違うって。そんなんやないねん。えっ、お兄ちゃんもあの漫画、読んだん?」
「そんなんやないんやったら、一人でトイレ行けるやろ?」
「そういうことやないねん。ねぇ、読んだんやね?」
「よう分からん奴やな、青衣は。まぁ、ええわ。ついて行ったるから」
「ここで待っとったら、ええんやな?」
「ずっと居ってよ。勝手にどっか行かんとってよ」
「分かった。分かったから、早う済ませてしまい」
「ぎゃ」
「なっ。どないしたんや、急に出て来て」
「そこ」
「どこや?」
「フタと座るところのあいだ」
「ん? あぁ、蜘蛛か」
「捕まえて、お兄ちゃん」
「こんな小さな蜘蛛、ほっといても何てことないで?」
「毒、持ってたり、噛み付いたりせぇへん?」
「持ってへんし、噛まへん。さっきの漫画に感化されすぎや。ほら。言うてる間に、蜘蛛のほうが騒がしいなと思うて、逃げて行ったわ」
「居なくなったと思わせて、気ぃ抜いたところへ襲ってきたりせぇへん?」
「せぇへん、せぇへん。何かあっても、すぐそばについてるんやから大丈夫や」
「妹といい、西園寺といい、冬彦といい。少しは自力で立ち向おうという気はないんか?」
「だって、蜘蛛だよ?」
「何するか分かれへんやん」
「こんな小さな蜘蛛が、人間に対して何をするっていうねん」
「外見で判断するのは早計だよ」
「見かけによらへんよ」
「心配いらんから。ほら。窓から逃がしたから、もうええやろ」
「助かったよ」
「おおきに」
「網戸の一つでもあれば、こう頻繁に騒がなくて済むんだがなぁ」
「申請しようよ」
「そうよ。生徒会長としての権限で何とかしてよ」
「理由がないとなぁ」
「円滑な生徒会活動のためだよ」
「生徒の身の安全を守るのが、生徒会の使命よ」
「牽強付会にも程があるわい。書けるか」




