第64話「二十年後」
「お水、お持ちしました」
「おっとっと。春海。何でコップの縁、ギリギリまで水を入れるんや。床に零れとるやないか」
「郵便です。東野春樹・夏海様宛てです」
「ご苦労さん、夏樹」
「結婚式の案内ハガキやね。誰から?」
「西園寺、いや、中之島か」
「西園寺って、お洋服くれる人?」
「中之島って、お菓子くれる人?」
「間違うてへんけど、その言いかたはあかんなぁ。――また、楠山高校卒業生のペアやね。手近で結ばれ過ぎと違う?」
「目上の人は、呼び捨てで呼んだらあかん。名前のあとに、さんを付けなさい。――付かず離れずから急接近したり、一途に付き合い続けたり、紆余曲折の末、元の鞘に戻ったり。まぁ、十人十色やけどな」
「わぁ、お説教や」
「逃げろー」
「廊下を走るんやない。――他人のことは言われへんのんと違う?」
「まぁ、そうやな。最初が、北条と鳳。次が、千林と樟葉くん」
「朱雀は、箕谷さんで、青衣ちゃんは、京橋くん」
「ほんで、西園寺と中之島か」
「住んでる場所も、仕事も、家族構成も、みんなバラバラやけど」
「見えない糸で、繋がっとるな。おや?」
「お父ちゃんとお母ちゃんに、お客さん」
「上新庄さんって人」
「通してええぞ。――何の用やろう?」
「また、彼女と揉めたんと違う?」
「一段落したかと思うてたのに。やれやれ。まだ問題が片付いていない人間が残っとったもんやなぁ」




