第63話「愛別離苦」
「そうですか。いえ、お世話さまです。それじゃあ」
「どうやった?」
「……間に合わへんかったみたいや」
「そんな。こないだまで、普通に元気にしとったのに」
「運が悪かった、と思うしかないやろう」
「みーちゃんは、冷たいんやね」
「悲しみより、怒りが沸いとるよ。でも、やり場がないやないか。誰のせいにもできへん。津波にしても、土砂崩れにしても、自然災害やねんから」
「もう、はっつぁんやひくしには会われへんのんやね」
「楠浜トリオ、解散やな」
「こんなことになるのんやったら、連休に旅行に行くのんを、引き止めるべきやったんかもしれへんわ」
「いまさら言うても、どないしようもないけどな」
「……なぁ、みーちゃん」
「まぁ、そう落ち込みなや。空腹で考えても、堂々巡りするだけやぞ? もう遅いから、一緒に夕飯を食べて行き。なっ?」
「食欲ないわぁ」
「昨日、ええ牛肉が手に入ったから、すき焼きにするんやけど?」
「こんなときに、何を考えてるのんよ。そんなん食べてる場合と違う。あっ」
「……お腹のほうは、正直やな。ほんなら、鍋を用意するわな。お腹が空くということは、健康に生きてる証拠や。おっ、インターホンや。来たかな?」
「誰か呼んでたん?」
『京橋さん。樟葉っす。瑠璃さんは来てるっすか?』
「来とる、来とる。今、開けるわ」
「ちょっと、みーちゃん。何で、礼多くんを呼んだんよ?」
「彼女が落ち込んどるのを慰めるのんは、彼氏の役目やろう? それと、ついでに買い物も頼んだんや。白菜とか、水菜とか、豆腐とか。水気があるものが欲しかったからな。割り下は、使いとうないし。おっ、来たな。はい、どうぞ」
「どうもっす。瑠璃さん。もう大丈夫っすよ」
「どんだけ買うてきたんよ。三人しか居らへんのに。……二人の能天気さを見とったら、悩んでるのんが、阿呆らしいなってきたわ」
「煮込んだら嵩が減るから、問題ないやろう。――初。隆。瑠璃のことは、心配せんでええからな」




