第59話「登竜門」
「お疲れさまっす、セイさん」
「二次試験も終わったことやし。発表までは、のんびり出来るわ」
「今までは、のんびりしてなかったんっすか?」
「週に一度は、息抜きとして思う存分遊ぶことにしとったけど、それ以外は気を張ってたんやで?」
「見えないところで、受験生してたんっすね」
「毎日の生活習慣が、受験会場で実力を発揮できるかを分けるからな」
「早寝早起きとかっすか?」
「そうやな。朝型生活に慣れること。夜はきちんと熟睡し、昼寝はしないこと。一夜漬けは、絶対やったらあかんで。それから、だらだら続けへんように、制限時間を設けるのも大事や」
「試験は、朝早うから始まる上に、大量の問題を解かされるっすからね。効率ええ勉強法はあるっすか?」
「勉強法か。大きめの暗記カードを作ること。英文読解以外の授業は、予習せぇへんこと。退屈で非効率な授業は、寝るよりも内職をしたほうがええな」
「袋詰めとか、薔薇作りとかっすか?」
「ちゃうちゃう。別の授業の勉強をするのんを、内職するって言うのんや。そういえば、野田先生の授業で、生物の問題集を解いとったら、担任に報告やと言われたことがあったわ」
「担任の教科っすよね?」
「そうやねん。出屋敷先生と二人で、どういう話をしはったんか知らんけど、それ以来、黙認されるようになったんや。そうそう。定期試験は、対策する必要あらへんからな」
「成績が下がりそうっすけど?」
「推薦を貰う気やったら、お行儀良くするべきやけど、一般入試で勝負するんやったら、受験勉強に集中すべきや。変に色気を出すと、両方とも逃してまう」
「二兎を追うものは、一兎も得ずっすね?」
「ただし、カンペは作ったほうがええな。試験中に見たらあかんけど、要点の洗い出しと、安心材料になるから、懐に忍ばせといたらええわ。要点は、その教科の教員になったつもりで架空授業をすると、自ずと見えてくるわ」
「持ってるだけでも、アウトな気がするっすけど?」
「定期試験ぐらいやったら、ばれへん、ばれへん。下手にボディー・チェックしたら、セクハラになるからな。それから、参考書についてやけど、カラフルな参考書は、目がチカチカするだけやからな。書き込んだり、ノートにまとめる時も、三色までに抑えや」
「書店にズラズラと並んでるっすけど、どういう参考書がええんっすか?」
「入門書より、難問集のほうが、解答がしっかりしてるから、そっちを薦めるわ。あと、参考書や問題集は、背表紙にアイロンを当てて糊を溶かして、分解してしもうたほうが、持ち運びで体力が奪われへんし、やるべきことが明確になるわ」
「覚えかたや解きかたに、コツとかはあるんっすか?」
「歩きながらや喋りながら勉強すると、五感で覚えられるから忘れ難うなるわ。ただし、同じながらでも、食べながらとか聞きながらとかはあかんで。それから、解答用紙に記入するときは、汚くても丁寧な字を書くこと。天才型よりも模範解答のほうが部分点が付くから、閃きより定石に沿って解くことやな」
「奇を衒うより、堅実に積み上げたほうが有利なんっすね」
「そうやな。独創性は問われへんな」
「それって、大学としてはどうなんっすかねぇ。面白い人材が弾かれてないっすか?」
「その可能性は、否定できへんな。せやけど、それを変えられる立場にはあらへんから、どないしようもないな」
「……無事に受かってるとええっすね、セイさん」
「あぁ。そうやな、樟葉」




