第53話「彼岸過ぎ」
「紅葉狩りに来たはずやねんけどなぁ」
「ええやん、ええやん。こんなに落ちてるのんや。拾うて行かな損やないの」
「誰かの私有林やったら、どないするんや、南方?」
「その時は、正直に謝ろうや、春樹。桜の枝を折ったのんは、あたしですって」
「ワシントンか。あれも、作り話らしいけどな」
「毬が無うたら、こうして足で開ける手間が省けるんやけどなぁ。よっと」
「栗かって、無防備に食い尽くされたら堪らんからな。植物の知恵や。おっと」
「また、落ちてきたんや。長袖、長ズボン、帽子の完全防備で来て、正解やったね」
「山登りの基本やけどな。あぁ、これはあかん」
「大きい栗は、虫が先に食べてしもうてるもんやね」
「美味しいところは、よぅ分かるんやろうな」
「ブレザーには、まだ早いけど、カッターシャツの上に一枚、何か羽織るもんが欲しいところやね、朱雀くん」
「そうだな、冴絵殿。ベスト、セーター、カーディガンあたりが定番か」
「あとは、パーカーとか、フリースとか。ジャージの上を着てる子も居るね」
「真昼の太陽は、これでもかと熱線を地上に降り注ぐが、朝夕は急激に威力を落とすようになったな」
「秋も、だんだん深まって。赤や黄色に色付いて来たねぇ」
「青々とした山が、冬支度を始めたようだな」
『いーし、やーき、いもー』
「焼き芋屋さんやね。少し、離れたところみたいやけど」
「そのようだな。少し前まで、わらび餅やカキ氷の季節だったというのに」
「そのうち、灯油のトラックも回ってくるやろうね」
「灯油、一八リットル、千四百九十円で販売いたしておりますってな」
「垣根の、垣根の、曲がり角」
「焚き火だ、焚き火だ、落ち葉焚き。そういえば幼少の時分に、庭の落ち葉や枯れ枝で焼き芋を焼こうとして、怒られたことがあった」
「夏海さんに止められへんかったのん?」
「違う。姉上が言い出したのだ」




