第15話「調理以前に」
「西園寺、どないしたんや。ぐったりしてるようやけど?」
「さっきまで、うちのクラスは調理実習やってんけどな」
「まさか、南方さんと同じ班になったんじゃないよね?」
「その、まさかなんよ、北条くん」
「南方は料理が苦手なんか?」
「南方さんは、その、何と言おうか」
「意欲は高いんやけどねぇ」
「腕が伴わないという訳か?」
「向き、不向きがあるから」
「オリジナリティを発揮しようとせんかったら、まだ」
「日頃の性格から推し量るに、何となく問題点が分かってきた気ぃするわ」
「楠山高校のロイター、中之島正。華々しく大登場」
「手先の不器用さは、不慣れなだけだと思うんだ」
「味覚の相違は、家庭の違いやと思うし」
「丸っきり処置なしって訳でも無さそうやな」
「誰か、注目してぇ。保健室から隊長のスクープを持ってきたんですよぉ」
「やっぱり、怪我したんだ」
「そうなんよ。大した怪我ではないんやけどね」
「体育といい、家庭科といい、理科といい。生傷が絶えへん奴やなぁ」
「隊長の怪我は、名誉の負傷ですよ」
「料理中の怪我に、どんな名誉があるのかな?」
「任務を遂行しようとした努力の表れやありませんか」
「せやろか?」
「たとえ料理が出来なかろうと、現代日本にはコンビニ惣菜と冷凍食品という強い味方があるんですよ」
「フォローになってへんで、中之島」
「もしくは、料理上手なパートナーを探せばええやありませんか」
「完全に開き直ったね」
「他力本願やね」
「自助努力を放棄したな」
「やっぱり、ここに居ったんや。副長」
「隊長。ご無事で」
「何で南方はジャージを着てるんや、西園寺?」
「夏海ちゃん、最後に頭から小麦粉を被ってしもうたんよ、春樹くん」
「それで、タオルが濡れてるんだね。でも、小麦粉を使う料理なんてやってないよね、東野くん」
「今週の二年生の実習課題は何やったんですか?」
「青椒肉絲、の筈なんやけど」
「具材を細切りにして炒めるだけなんやけどねぇ」
「火柱が上がって天井を焦がしたりしなかった?」
「ちょっと、冬彦くん。中学時代の失敗談を暴露せんとってよ」
「骨が折れそうやなぁ」
「色んな意味でね」