第48話「風物詩」
「お仏壇とお墓に飾るのは、どれ?」
「樒と菊や。蓮は、いらんからな」
「菊より、向日葵のほうがええのんと違う?」
「それは、青衣の好みやろう。仏さんとご先祖さんに供える花は、樒と菊と昔から決まってるんや」
「毎年、みんなで同じ花を供えとったら、ご先祖さんは、飽きたり、迷うたりせぇへん?」
「大丈夫や。墓石に東野家之墓って彫ってあるんやから」
「あと、胡瓜と茄子も買うて行かな。割り箸は、売るほどあるけど」
「胡瓜の馬と、茄子の牛か」
「不思議やねんけど、どうして、行きも帰りも子孫が用意するのん?」
「それはな、青衣。今の俺らがあるのんも、ご先祖さんのおかげやっていう、感謝の気持ちを込めてやな」
「そういうことを訊いてるのんと違う。茄子の牛は、こっちから向こうへ帰る用から、こっちで用意するのんは分かるんよ。せやけど、向こうからこっちに来る用の乗り物は、向こうで用意せなあかんのと違う? こっちに胡瓜の馬を置いてても、乗られへんことない?」
「あぁ、そういうことか。考えてみたら、おかしいな。何でなんやろう?」
「みーちゃんの弱虫」
「いや、だって。普通、釣ったばかりの魚を、素手で捌くか?」
「ジャイアント瑠璃は、怖い物なしやな。なぁ、ひくし」
「せやな、はっつぁん。虫も平気で触れるし。ワイルドにも程があるわ」
「大の男が三人して、意気地のない」
「うわぁ、こっちに来るんやない」
「大変や。熊が現れた」
「まさか、ニジマスを武器にするとは」
「あたしは、木彫りの熊か。こらぁ、逃がさへんで」
「おかず系は、焼きそば、たこ焼き、焼きとうもろこし、フランクフルト」
「おやつ系は、ベビーカステラ、焼き甘栗、綿飴、リンゴ飴やね」
「お楽しみ系は、金魚すくい、型抜き、ヨーヨー釣り、射的やな」
「大阪焼きは、関西には無いんだね」
「あれは、中之島くんと樟葉くんやない、冬彦さん?」
「射的か。大物狙いのようだな、冴絵殿」
「そうみたいやね。あっ、一回で落ちた。狙いが正確やね」
「隊長さんも、意外な特技を持ってるんやねぇ」
「ねぇ、華梨那さん。悪いことは言わないから、引き返そう?」
「心配あらへんよ、冬彦さん。さっきの夏海さんたちの話は、作り話に決まってるやん」
「集まって怪談を披露してると、本物の幽霊が寄ってくるって言うよ?」
「幽霊の、正体見たり、枯れ尾花。さぁ」
「夜のお寺で肝試しだなんて。こんなことになるなら、盆踊りが終わってすぐに、先に帰っておくべきだった。ひゃあ」
「大丈夫、冬彦さん?」
「華梨那さん、うしろ。何か居るよ」
「うしろ? 何も居らへんやん。嫌やわぁ、からかわんといて」
「気付いてないの? それとも、視えてるのは、僕だけ? ひぃ」
「ほら、しっかり。疑心暗鬼になってるだけやって。何てことないやない」
「いや、本当に、居るんだって。信じてよ」
「はい、はい。――夏海さん、冴絵ちゃん。その調子、その調子」




