第43話「七色プラス・ワン」
「車内に扇風機がある、弱冷車とはねぇ」
「今どき、珍しいっすよね、北条先輩」
「中之島。無理して吊り革に掴まらんでも、ええんやぞ?」
「無理してませんって」
「そういえば、生徒会の選挙は、もう終わってるんだっけ?」
「そうっすよ。毎年恒例の、七夕選挙っす」
「次代は、誰になったんや?」
「対立候補の不在で、信任投票だけやったんですよ。会長は副長で、書記は箕谷さんですよ」
「第三十六代は、朱雀会長と、箕谷書記か。徽章の引継ぎは、楠山祭のあとにやるの?」
「そうっすよ。二人は、三十七代も継続することになりそうっすね」
「生徒会執行部役員って、人気がないんやなぁ」
「面倒臭いことが多いのんは、確かですよ」
「二人が立候補したのは、何か理由があるのかな?」
「きっかけは、図書室で大石先生にスカウトされたことらしいっす」
「そういえば、二人とも図書委員なんやったな」
「大石先生って、しょっちゅう図書室に来はるんっすよね」
「数学教員のはずなんだけどねぇ」
「自習も多いですよ。どこで、何をしてはるのんやら」
「俺らのときも、謎だらけやったな」
「学校に一人は、何をしてはるか分からへん先生が居るもんっすよね。――飴ちゃん、どうっすか」
「缶入りの飴だね。味は、イチゴ、レモン、オレンジ、パイン、リンゴ、ハッカ、メロン、スモモだっけ?」
「メロンとスモモがあるのは、緑の缶ですよ」
「赤い缶は、ブドウとチョコやったな」
「どっちにしても、ハッカがあるんっすよね」
「苦手なの?」
「樟葉は、喉がスースーするものがあかんよな。ハーブ風味の飴とか、ニッキとかシナモンとか」
「好みが分かれるところやな。俺は、甘い味ばっかりやったら締りがないから、ハッカがあるほうがええと思うけど」
「歯磨き粉を連想させられるから嫌なんっす。チョコミント味のアイスクリームとか、イチゴ味のカキ氷とか」
「だから、真っ先にメロン味を選んだのか」
「作り物染みた清涼感は、度が過ぎると不快になるもんですよ」
「そうやな。――もうすぐ降りるから、荷物を用意せぇよ」
「あ、向こうに虹が見えるっすよ」
「本当だ」
「どこ、どこ?」
「ほら、あの雲の近くや。ドア・ステッカーの無いところで見ぃ」




