第42話「白砂青松」
「まだ、受験は終わってへんのに」
「会いに来てはいけないとは言ったけど、会いに行かないとは言っていないよ」
「冬彦。素直に会いたかったとは、言われへんのか?」
「一番、素直やなかったのんは、東野さんと違います?」
「他人のこと言えないよねぇ」
「やかましいわぃ」
「瑠璃ちゃんは、委員長くんとビーチフラッグするって言うとって、冴絵ちゃんは、夏海さんとビーチバレーしとったけど、他のみんなは?」
「会長くんは、会計くんと西瓜割りしてたよ」
「西園寺は、青衣と貝殻拾いに出掛けとる。朱雀くんは浮き輪を持っとったから、そのへんで泳いどるんと違うかな。念のため、離岸流とクラゲに注意するようには、言うておいたけど」
「そろそろ、お昼やし、海の家で何か食べる物を買うたほうが、ええような気がするわ」
「そうだね。東野くんも」
「俺は、このパラソルの下で、見張り番をしとかなあかんから、二人に頼むわ」
「ラムネ、カキ氷、イカ焼き」
「食事になりそうなものでは無さそうな三点だけど」
「何もないより、ずっとええやない」
「それも、そうだね」
「それにしても、前に並んでた子は、傑作やったね」
「イチゴかメロンしかないって言ってるのに、白熊や宇治金時を注文しようとするんだものね。おかしな子だ。うん」
「ん? 冬彦さん。わたし、何か気に障るようなこと言うた?」
「うぅん。何でもないんだ」
「何でもない顔と違う。何か引っ掛かってることがある時の顔や」
「参ったなぁ。……ちょっと言いにくいんだけど」
「聞いて芦屋レーヌ」
「アロエじゃなくて? えっと、さっきの話だけど」
「顕微鏡で自由研究した話?」
「それより、前の話」
「芦屋しかり、神戸しかり、尼崎しかり。山手と浜手では、同じ市内でも大きく違うって話?」
「その前かな。さっき、僕が海の家のお兄さんに話しかけられたから、華梨那さんには、先に外で待ってもらったよね?」
「あぁ。何を話してたのんって聞いた時やね?」
「そう、それ。どうも、あのお兄さん。ゲイかバイらしくって」
「目星を付けられたのん?」
「そうみたい。一緒に居るのは彼女かって訊かれたから、そうですって答えたら、残念そうな顔してた」
「そうなんや。色んな人が居るもんやねぇ」




