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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第2部
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第41話「柔軟性と多様性」

「東野くんは、第二外国語をドイツ語にしたんだね」

「ヤー。そういう冬彦は、フランス語なんやな」

「ウィー。発音とか、文法規則とか、名詞の性別とか。日本語とも英語とも全然違うから、翻弄されてばっかりだよ。おまけに、フランス語の先生が厳しい人でね。陰で、ジャンヌ・ダルクって呼んでるんだけどさぁ」

「こっちも、似たようなものやな。男の先生で、厳格なものやから、ビスマルクって呼んどるんや。口髭は生やしてへんけどな」

「フフフ。それにしても、大学ってところは、教授と学生が単位を巡って鼬ごっこをする場所だよねぇ」

「出席票とか、レポートとか、発表とか。真面目にやるのが、阿呆らしくなるもんな」

「僕の通ってる大学は、出欠情報を、学生証で一括管理してるんだけど、代返を防ぐために、機械を教卓において、教授がずっと監視してるんだよね。それが、大教室の場合だと、順番待ちの行列ができる所為で、講義開始が遅れるんだよねぇ」

「毎回きちんと講義に出させて、ちゃんと勉強させるためやろうけど、それで講義時間が減ってしもうたら、本末転倒やないか」

「本当にね。授業を全部、少人数の演習にするか、普通に名前を呼ぶか、指定席するかしたほうが早いよ」

「どちらにしても、真面目な学生が馬鹿を見る構造であることには変わらへんな」

「場当たりな対策は、いい迷惑だよ。さて。レオンモールに着いたね」

「トップマックスは、と」

「一階と二階にあるね。食料品は一階で、生活雑貨が二階みたい」

「フロア・ガイドか。いつの間に取っとったんや?」

「ドイツ語の教授が、ビスマルクってあたり。改札口前の案内所にあったから」

「冬彦に頼んで正解やったな。目端が利いとる。青衣や南方では、こうはいかへん」

「それは、どうも。それで、何を買うの?」

「食べ物ばっかりやから、一階やな。西園寺も、関西の味が忘れられへんみたいやな。乾瓢巻きは、完成品とは認めへん。あんなもんは製作途中やって言うとったし」

「物足りなかったのかな?」

「乾瓢は、太巻きの材料としての印象が強いからなぁ。マグロと違うて、主役として成り立たへんと思うんやろう」

「僕も、初めて関西に来たときは、戸惑いを隠せなかったよ。冷やしアメとか、紅しょうがの天ぷらとか、牛すじとか、鯖や穴子の押し鮨とか、他人丼とか。まぁ、食べ慣れた料理が恋しくなる気持ちは、何となく分かるなぁ。僕も時々、ちくわぶとか、すあまとか、無性に食べたくなるんだよねぇ」

「習慣の違いやな。青葱か長葱か、丸餅か切り餅か、食パンが五枚切りか八枚切りか、稲荷寿司やおにぎりを、俵にするか三角にするか、鰻が背開きか腹開きか、ひなあられがポン菓子か揚げあられか、三色おはぎの三色目が青海苔か黒胡麻か、桜餅が道明寺か長明寺か」

「食べ物以外だと、畳の広さ、エスカレーターの立ち位置、山手線と大阪環状線、電気の周波数、トイレットペーパーがダブルかシングルか、灯油のポリタンクが赤か青か」

「同じ本州にあっても、山や川を挟むと、ガラッと変わるからなぁ」

「そう考えると、日本って、本当に不思議な国だよね」

「文化も習慣も違う人間が、平和に共存してるんやもんなぁ」


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