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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第2部
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第40話「関ヶ原の向こう」

「久しぶりやね、秋ちゃん。元気にしてた?」

「久しぶりやね、夏海ちゃん。始めの一ヶ月ぐらいは、戸惑うてばっかりやったけど、よぅやっと慣れてきたところ」

「それは、良かったわぁ。髪の毛、アップにしたんやね」

「前に貰うたトンボ玉を、普段から使うことが出来へんかなぁって思うてたんやけどね。お母さんが、ヘアゴムにしてくれたのんよ」

「印象が変わるわ。みんな、びっくりするんと違うかなぁ。それで、どない? 久々の関西は?」

「新大阪の駅を降りて、蝉がミンミン鳴いてるのんを聞いた途端、あぁ、関西に帰ってきたんやなって思うたわ。関東は、アブラゼミが多いのんよ。あと、駐輪してあるどの自転車にも、ハンドルには傘を差すクリップがあって、前かごには引ったくり防止用のネットがあるっていうのを見ても、さすが関西やなって。これ、途中の横浜駅で買うたんやけど」

「かの有名な焼売やね。まだ、ほんのり温いわ。向こうのこれは、こっちで言うところの、神戸の豚まんに相当するんやろうか?」

「三宮に本店がある、あのお店やね。どっちも元町中華街があるし、似てるかもしれへんね」

「食べる物は、向こうのほうが味付けが濃いことなかった?」

「関東は醤油文化やから、出汁文化の関西とは違うのは確かやわ。それも、薄口醤油や無うて、濃口醤油やから余計に」

「醤油だけやなくて、ソースも違うって言うけど?」

「関東は、中濃ソースが広く使われてるわ。あと、ドロッとしたあのソースは、関西だけやね。とんかつソースとウスター・ソースは、どっちにもあるけど」

「良かったら、忘れんと買うて帰りや。ソースで思い出したんやけど、お好み焼きをピザ切りするって、ほんま?」

「ほんま、ほんま。関東では、大判に焼いたのんを、みんなで分け分けして食べるから、不公平にならへんように、ピザ切りにするのんよ。その点、関西は小振りな一人用を、各自で好き勝手に焼くから、格子切りするやと思うわ」

「格子切りでも、二人で食べられへんことないけど。一人は四つ角と真ん中で、もう一人は残りの四つやね」

「はぁ。それやったら、数は五つと四つやけど、面積は同じくらいになりそうやね。そうそう。切りかたのことを、お父さんに言うたら、それぞれの主要交通網と同じやって」

「東京はどうか、咄嗟に思い描かれへんけど、大阪は確かに格子状やね」

「地図で確かめたんやけど、東京は放射線状なんよ。その所為で、同じ道を歩いてても、どっちが西で、どっちが北か、すぐに分からへんようになってしもうてね」

「この通りを東に真っ直ぐ行ってとか、この筋を南にどーんと下りるとか、そういう訳にはいかへんっちゅうことやね?」

「そうなんよ。バスも、乗りかたが違うてね。関西やったら、後ろから乗って、最後に払うやん? それが関東やと、前から乗って、先払いするのんよ。そう、そう。どこで降りたらええか分からへんようになってもうて、仕方無しに途中でタクシーを拾ったこともあるんやけど、運転手さんにも、よぅ道を知らん人が居るのんよ」

「はっはっは。それは困ったことやね」

「楽しそうやね。何を盛り上がってるのん?」

「あぁ、彪子小母さん。お邪魔してます」

「前に電話で言うてたことなんよ。あっ、それ」

「向こうには無いって言うとったから、買うてきたのんよ」

「見た感じ、普通のメロンパンやけど、向こうにはなかったん?」

「関東でメロンパンって言うたら、円形で、表面がビスケット生地で、網目模様なんよ」

「それ、サンライズやん」

「秋も、夏海ちゃんと同じこと言うてたんよ」

「夏海ちゃんも、うちと同じなんやねぇ」

「あたしらだけと違う。関西人やったら、みんな、そう言うわ」


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