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トリオとコンビ  作者: 若松ユウ
第2部
137/164

第37話「観察眼」

「今年度から、二クラスなんやなぁ。俺が通うてた頃は、四クラスやったのに。奥様連合は、父親を遠巻きにするんやなぁ。俺も、離れとこう。あぁ、居った、居った。青衣ぃ」

「えっ。何で、お兄ちゃんが居るんよ? お父ちゃんとお母ちゃんは?」

「どっちも仕事や」

「お兄ちゃんかって、大学と違うのん?」

「事前に、担当教授に報告済みや。憲法第七十六条の裁判官の独立について、二千字程度の簡単なレポートを提出したら、出席とみなしてくれるそうや」

「二千字って、原稿用紙五枚分やない。そんなに簡単に書けるのん?」

「これでも、大学のレポートとしては少ないほうや。それより、ちゃんと覚えられたんか?」

「まだ、ちょっと不安やねん。間違うたら、どないしよう」

「青衣。上手くいくようにイメージせな、しょうもない失敗するで? 青衣が頑張ってきたのんは、俺がよぅ知ってる。要らん心配せんと、目の前のことに一生懸命になり」

「せやけど」

「大丈夫や。何とかなる」


「ご苦労さんやな、青衣」

「途中で詰まったときは、頭が真っ白になりそうやったわ」

「せやけど、問題なかったやろう?」

「あんな、わざとらしく咳込まへんかっても、ええようなもんやと思うわ」

「あれで、場の空気が和んだやろう?」

「たしかに、笑いは起こったけど。お兄ちゃんは、笑われて平気なん?」

「人間、笑われてなんぼや。このままコープさんに寄って帰ろうか」

「うち、制服のままやけど?」

「構へん、構へん。誰も、そんなこと気にせぇへんから」


「コープさんのお菓子以外の、お菓子メーカーのお菓子なんて、久々やね」

「いつもは、安いプライベート・ブランドしか買わへんからな。今日は、特別や。おっ」

「どないしたん?」

「昨日のすじ雲が、うす雲、いわし雲、むら雲、おぼろ雲になって、とうとう入道雲やな。これは、ひと雨、来そうやな」

「天気予報では、一日中、晴れたり曇ったりで、傘は必要ないって言うてたのに」

「気象予報ばかりを当てにするのんやなくて、実際の空を見な。実地で五感を研ぎ澄ませな、わからへんこともあるもんや」

「早う帰って、洗濯物を取り込まな」

「それも、そうやな。話してる場合やないわ。走れるか、青衣?」

「走れる」

「よし、急ぐで」


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