第33話「不良と仔猫」
「それで、カツアゲもせずに家まで送っていったんっすね? セイさんも、丸くなったっすね。中学時代なら、誘拐疑惑がかかったところっすよ」
「悪かったな、元ヤンキーで。五歳児をカツアゲしたところで、何の意味があるんや?」
「まぁ、無いに等しいっすね。やるなら、郵便局から出てきた高齢者っすね」
「お前も大概やぞ、ライ」
「セイさんには及ばないっすよ。おや?」
「急に前に出るなや。どないしたんや、ライ?」
「この水路から、猫の鳴き声が聞こえたんっすけどねぇ」
「猫?」
「あぁ、ここっすね。ほら、青い目が」
「ほんまや。出られへんのやろうか?」
「仔猫にとっては、絶壁っすからね。しばらく、ここに居て貰えるっすか、セイさん。俺は、伊丹さんを呼んでくるっす」
「おぅ。任せとき」
「頼んだっすよ」
「近くの墓園から、迷い込んできたんやろうな」
「この近くに、墓園なんかあったっすか?」
「すぐ隣の修道院の敷地内と違うか、樟葉?」
「そうそう。かなり弱ってるから、体力が快復するまでは、用務員室で預かるか」
「よかったな、レーセン」
「そのネーミング・センスはどうやろう?」
「何で、レーセンなんだ?」
「雑種やけど、アメリカン・ショートヘアとロシアン・ブルーを足して二で割ったような見た目っすから」
「一匹冷戦状態ってことやねんて」
「なるほどな」
「早う元気になりや、レーセン」
「……中学時代の樟葉からは、考えられへん光景やなぁ」
「結構、居るもんやなぁ」
「虎縞に、斑に、黒猫、白猫。あと三毛猫も居るっすね」
「ライ。ほんまに、このまま返してええのんか?」
「責任を持って最後まで面倒を見られないなら、必要以上の施しをしてはいけないっすよ。期待を裏切ってしまうし、猫が自力で工面する努力も、失わせてしまうっすから。風邪薬やサプリメントの多用で、免疫力や自然治癒力が落ちるようなものっすね」
「せやから早めに、ってことか」
「セイさん。本当はセイさんこそ、手放したくないんと違うっすか?」
「俺は、別に」
「飼われへんのに、餌だけやる訳にはいかないっすよ、セイさん?」
「わかっとるわ。……こういうドライなところは、変わってへんなぁ」




